土×榎novel-SS

□Rub-a-dub-dub
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応接用の長椅子で土方が本と向き合うその部屋の奥では、執務机に構える榎本がサンドイッチを片手に帳面を読んでいる。

土方は字を流すその片隅で、榎本の様子を盗み見ていた。


その姿、立ち振舞い、普段の赴きから所作には過敏だとか几帳面だと思われているような榎本だが、
それはあくまでも表向き。

内面と言うか気を抜いてる所をよく見れば、大雑把で整理整頓をしない。
寧ろ、片付け下手とも言うのだろう。何かを出せば、それは出しっぱなしの傾向があった。
現に榎本が居る卓上や周囲は本や書類が山澄で、
どんどん蓄積されてくばかりの紙で榎本の姿が机の奥に半ば隠れているのだ。

絶妙なバランスを保つソレらは一歩間違えると大惨事を招き兼ねないし。来客となれば榎本の面子が疑われる。
その前に大塚など総裁附の者や松平の手によって本が本棚へと一斉撤去されたり。
この部屋に土方が来た時にも、気を遣って多少なりとも片付けたばかりなのに、
土方が離れた途端、榎本が仕事に打ち込み手が忙しなく動き回り始めると、
瞬く間に机の辺りが散らかってきた。


餓鬼か・・・。


土方が眺める視線のその先、持っていた帳面をポイッと紙の束の頂上へ置いて、その上に違う書類を重ね。
更に、その脇にある山澄された本の隙間に挟まる地図を出そうとして、
持っていたサンドイッチを口に咥え。
上に何冊も重なる本を手で押さえつつ引っ張ったが、
傾いた本はたちまち雪崩れて、机の正面へ向かって崩れ始めた


「─…ンン゙っ!」

慌てて本を支えたが、その衝撃に誘発されたか
隣の書類まで揺らいだのを咄嗟にもう片手で庇うと、
榎本の両手は塞がり。身動きが取れなくなってしまった。


「・・・・・。」

「・・・・・。」

どうするのか見れば、相手も土方の顔を見た。
口に挟んだサンドイッチの所為で声も出せないのだ。
とても哀れに思えた。
しかし、八の字に眉を歪ませ必死な視線で縋ってくるので、土方は腰を浮かし。

長椅子の側まで靡いて来た一枚の紙を床から拾い。
机に近付いて本を積み直し、傾いた書類を重ねると、
漸く榎本の手は自由になり。咥えていたサンドイッチを一口で頬張った。


「…ありがと、ごめんね」

解放された腕を回し肩をほぐしながら苦笑する。

「ったく、アンタなァ…」

机の正面に散らばっていた書類も拾い上げ卓上でトントンと整えながら、土方は険しい顔をした。

「読んだ本とか使った物は直ぐ元に仕舞えばいいだけだろ」

なんでそれが出来ない。と説教すれば、
榎本は異国で培った仕草か肩を軽くすぼめ上下に一回揺らした。

「どうせまた直ぐに必要な物ばかりだからさ、イチイチ出し入れするのが面倒だし」

「屁理屈言うなっ!そんな横着してっからこーなるんだよ。俺が居なかったらいつもの二の舞だったろ」

「でも、君が居てくれて助かったから、それでいいじゃん。そんなカリカリしないでよ」

ヘラヘラ笑うばかりの榎本に指先でツンと小突かれた土方の眉間の皺が、グッと深まる

土方が悶々としていると、部屋の扉がノックされ。
大塚が顔を出した

「武与殿が正門に来られていますよ」

「そっか、久々に少し顔見せて来ようかなー」

衣紋掛けから上着を取り上げると榎本は羽織り。急ぎ足で扉に向かう

「出来るだけ早めに戻って来るから。君は先に風呂でも入ってなよ」

「それより、ココを片付けとく」

「えーっ、帰って来たら続けるもん。そのままにしといてよ」

「また崩れるぞ」

ソコでフと脚を止め。未だ机の前に立つ土方を振り返り肩越しで見て、



「その時もまた、君が居るから大丈夫だね」


今夜は共に居ると言うのを暗に仄めかす科白と一緒に

唇に指先を当て、ピンッと一つ弾く悪戯な仕草をした


その動きの意味を、土方は当然ながら知る由は無いが


「ちったァ懲りろよっ!」

少し声を裏返した土方の怒号に榎本の笑い声が重なった。






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