土×榎novel-SS

□春は、まだまだ
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「うー、まだ寒いねぇ」

外出から戻った榎本が外套の襟を立て鼻まで隠しながら土方の部屋へ来た。
用事の話しを一通り土方に聞かせ終わると、くしゃみを一つしてそう言い。
ソファーに小さく踞り部屋を一回ぐるっと見渡す

「アレ、ストーブは…?」

「大鳥さんと話して、もう仕舞っちまった」

「えーっ!早くない?ドコもまだ使ってるよ?」

榎本は盛大に不満の声を出して頬をふっくら膨らませるが、
土方は、上着を脱がなきゃいい。と鼻であしらう。

「ココだけでも経費削減だ。そろそろ石炭の需要減らしてかねぇとな」

「まだ雪降ってるじゃん」

「寒さは多少マシになってきたからよ。今頃、会議室も片付けてるぞ。大鳥さんが松平に言いに行ったから」

ブツブツ文句を呟きながら、うーっと涙を流す榎本。
ここで榎本が待ったを掛けたとしても勝ち目は無さそうだ。と早々に諦めた。
こんな時、何故か総裁権限が微塵も通用しないのだ。
土方は榎本を尻目に笑って煙草に火を点す。

「じゃあ、火鉢もダメ?」

「我慢しろ。つーかアンタに率先して欲しいンだか」

「でも、今夜は冷えるよ。荒井さんが言ってたから間違いないって」

榎本の力説に土方は流れで窓の外を見た。
そこでは少し強い勢いで大粒の牡丹雪が舞っている。
積雪も漸く落ち着き。昼間の陽が出ている間は暖かくさえ感じられるようになったものの、
流石は北国の雪はしぶとい

「ねー、火は我慢するから。今晩から毛布一枚増やしていいよね?」

「まぁ、それは構う事じゃねぇけど…」

布団部屋にでも余分な毛布があるか、後で一枚日干しするよう誰かに言おう。
紫煙を漂わせ。自分はどうしたものか土方が考えていると

榎本が、側に顔を突き出してきて笑った。



「君も寒かったら、こっちに入って来ればいいよ。」

その台詞に土方は軽く噴き出し。
そっちがその気なら、と気取って指先で煙草を燻らせ。口許を歪めた



「二人で寝んなら、毛布は要らねぇンじゃね?熱くて邪魔にならァ」






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