土×榎novel-SS

□お正月は着物でしょ!
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「やっと完成〜!」

新春を迎えた箱館奉行所、長官室で榎本はフゥと息を付き。
満足気に腕を捲った袖で額を拭った

「Mr.エノモト…足元が寒いです」

「そりゃ袴だからね。そー言うモノなんだよ」

榎本にされるがまま、立ち尽くしているのはカズヌーブ。
その格好は、この国には珍しいモノになってしまった二重の白い羽織袴だ。
平時に着ている自国の軍服ではなく、正しくこの国の正装と言うモノを身に纏う異人は違和感を放つ

「それに腹が…苦し」

「ちょっと帯を締めすぎたかな?でも、丈は合ってるし。似合ってるから大丈夫!」

榎本愛用の鏡の前。
初めての着物に首を傾げているカズヌーブの背後で、榎本は親指を立てて満面の笑みを浮かべている

そんな榎本の格好も、今日だけは日本人らしく羽織袴の正装である

「なぜ、私が着なければならないのですか…?」

「ブリュネさんだと丈が足りなくてさ。せっかく用意したんだしね」

長い袖口や襟元をカズヌーブは鏡の前で改めて見直す

見た事が無い訳じゃないが、初めて着る着物に少し戸惑いもあり。
これがこの国の本来の民族衣装なのだと納得しつつ、肌に触れる絹の優しい感触には此を造り出す日本の繊細さを実感する

「エノモトさんが用意したんですか?」

「去年はみんな正月どころの騒ぎじゃ無かったからさ。落ち着いて年が越せるんだし、少し贅沢な御年玉だよ」

「オトシダマ?」

「日本の風習。お正月に贈るプレゼントみたいなものかな…」

本来は金銭的な物だが、現物支給とて意味合いは同じだろう。
榎本の説明に聞き入った

「それより、早くブリュネさん達に見せてあげようか」

榎本の笑みに連れられカズヌーブは一つ頷くと、履き慣れず歩き難い草履で苦戦しながらも会議室へ向かった
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