土×榎novel-SS

□ガレット・デ・ロア
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そこは極寒の北国。
外を降り頻る雪に一面を覆われ。
平穏とは言えないが、特に目立った騒ぎも無く正月を過ぎようとしている蝦夷が箱館奉行所の一室から

今夜は香ばしい匂いが漂っていた

「何だこの匂い…」

長官室に居た土方は書状から顔を上げ。
近くに居た榎本も鼻を動かしてみる

「焼き菓子じゃない?」

「は?菓子…?」

榎本は別段、不思議がることもせず平然と述べるが。
何故この場所で、そんな匂いがしているのだ

当たり前だがここは菓子屋じゃない。
そして、この広大な大地を誇る蝦夷で現在もっとも地位のある場所。
一癖も二癖もあると噂される猛者共が集うのがこの五稜郭奉行所だ

血生臭い火薬の臭いなら未だしも、
不釣り合いな焼き菓子のような甘く食欲を誘うこの匂いは何事だろうか

「Donjour〜〜!!!!!」

「ブリュネさん」

矢鱈と機嫌の良い声と共に突如、部屋へ威勢良く乱入して来たのはブリュネ。
その艶めく金髪を靡かせ、榎本へ詰め寄った偉人と何やフランス語で楽し気に会話を始める

その会話は何一つ理解出来ない土方でも、この甘い匂いと関係があるのは間違いないと悟った

そして、瞳を煌めかせて榎本もいつしか顔を緩めている

「納得してるトコ悪いが、日本語で会話してくれね?」

「ブリュネさん達が、君と私に着物のお礼がしたいんだってさ」

「お礼?」

着物とは先日、榎本がブリュネに贈り。そこから流れてカズヌーブに渡ったものだ

「いらねぇよ別に…俺が買ってやった訳じゃねーし」

「そんな遠慮しないで、来れば良いじゃん。大人数が居れば盛り上がるし」

「盛り上がる?」

「ウンウン。レッツ異文化コミュニケーション!」

「ウィ、ムッシュ!」

「なんでそんなにテンション高ぇンだよ」

流石は留学生活の長い榎本だろう。
直ぐ様に異人のノリに乗っかっているが、やはり土方には到底理解の出来ない感性だ

「ケーキをご馳走してくれるんだって。面白いから参加しなきゃ!」

「参加?」

「ゲームさ!」

ケーキを食べるのでなく、ケーキに参加するなど。日本語すらも二人は成立していない。
そう訳の解らない日本語で説明され理解が出来ないまま、土方は二人に背中を押されて長官室を後にした
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