土×榎novel-SS

□貯古齢糖
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『今日は“愛の日”なんだから、張り切って下さいね』

なんて最後に銀が言い残して行った

何を張り切るって!?と
突っ込む前に、返す言葉も上手く出て来なかった榎本

「銀ちゃんの育て方、間違えたんじゃない?」

「はぁ?…良い奴じゃねぇか。アイツも立派な男だ」

親バカ兼過保護ながら二人から貰った箱を持つ今の土方に、何を言っても聞きやしないだろう

玄関でブーツを脱いで漸く居間に上がって寛ぐ様は、
いつもと変わらない風に見えるが口元は緩みっぱなしである

実は榎本も、市村たちと一緒に帰るつもりであった。
予定がある訳じゃなく、
今回は二人が言い出した事なのだから、それが無事に達成出来れば良かったのだ

的外れと言えどもチョコパイ投げ作戦で、土方も怒髪する程に驚いてくれた

間違い無く土方なら己が作ったのも受け取ってくれるだろうから、
早い話しは置き逃げを狙っていたのだが…

しかし、今こうして帰るタイミングを失い。
田村に余計な事を言われて、面と向かって渡すのも憤死しそうだ

「なぁ、何か変な匂いするのは気のせいか…?」

ソファーに座って貰った箱を眺めていた土方がフと顔を上げた

「えーとっ…それは…」

榎本の游いだ目線の先は厨である。
どうやら匂いの元凶で、土方は徐に厨を覗いた

其所はしっかりと後始末はしてあるが、その脇には勿論、榎本の仕業であるワインボトルや酒瓶が鎮座する

「アンタも一緒になって作ってたンだろ。この黒い土鍋は?」

「鉄くんが磨いてくれたけどさ…修復不可能だったかも」

榎本の料理下手は、丈夫な筈の土鍋を真っ黒に出来る破壊力があるらしい。
今日は二人が居たから、土鍋一つの被害で奇跡的に済んだと言っても過言ではないだろう

「ごめんよ、ちゃんと弁償するから…」

「その怪我に免じて許してやるよ」

弁解しようとした合間に、負傷した方の手が掬われ。
労いなのか、その甲に土方の唇が触れた

「アレを投げつけられちゃ堪らないが、アンタが作ったなら食っときゃ良かったな」

「違うよっ!本当に渡すのはこっち」

けして、本当に貯古齢糖で作ったパイを投げ付けて、受け取ってもらおう等と思っちゃいない。
箱に積めたモノを勢いで出してしまったが、情けなくも自慢が出来る程の出来映えだろうか
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