土×榎novel-SS

□しよくらあと[後編]
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「市村ー!」

廊下を歩きながら相馬は辺りを見回す。
いつもなら仔犬の如く駆け寄って来るのが、今日は返事すら無い

土方に同行して築城作業に赴いていた相馬や安富ら添役の面々が奉行所に帰還したのは勿論、
榎本と田村と市村の三人が出払った後だ

そうとは知りもせず、
相馬が控え室に行くと部屋には安富が寛いでいた

「市村を知らないか?」

「そう言えば見てないな。部屋にも居ないけど、何処に行ったんだろ」

「相馬くん。銀が来てないか?見当たら無いんだ」

入り口にいた相馬の背後から顔を出したのは、小首を傾げた春日である

「それが、鉄も居なくて。二人で遊びに行ったのかもしれませんね」

「そうか…。土方さんの部屋にも居ないのかな」

「俺がどうかしたか…?」

春日の後方から丁度、廊下を通り掛かっていた土方も居合わせた

「鉄と銀が黙って出掛けたらしくて…」

「へぇ、珍しいな」

「あぁ、土方くん!こんな所に居たのか」

「大鳥さん…?」

「今日の報告をしに行ったんだけど、榎本さんが留守なんだ。君は何か聞いてなかったか?」

「いや、何も聞いてねぇけど。榎本さんも居ねぇのかよ」

ただの偶然と疑って止まないが、
三人の消息を知るのに心当りを思い浮かべると何故か土方が其処にあるのだ

「勝手にどこ行ったんだ、銀のヤツ。危ない遊びしてなきゃいいけど…」

唇を尖らせる春日の視界に、庭を挟んだ渡り廊下の向こう側を横切る田島金太郎が見えた

「田島くん!」

呼び止められた視線の先には土方に相馬、安富、大鳥。
それと、呼び止めた声の春日が居る

僅かに田島の眉が吊り上がった

「皆さん御揃いで…」

「午前中は銀が一緒に居たと思うが、その後は何処に行ったか知ってるかい?」

「多分、鉄も一緒だと思うが」

心配を露にする春日と、眉を崩す相馬である。
やはり、あの出て行った二人の保護者だ。
どうやら銀は春日にも行き先を告げていないままだったらしい

「すみません。俺は分かり兼ねます」

「二人とも、行き先を告げないで勝手に居なくなる奴じゃ無いんだけどな…」

「心配ないですよ、外で遊んでるだけじゃないですか?」

顔を見合わせる相馬と安富と春日の三人には心苦しいが、その言い訳で納得している

しかし、田島が上手く誤魔化せたかと安堵したのも束の間だった
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