土×榎novel-SS

□しよくらあと[前編]
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「てぇーつぅー!!!!」

大人ばかりの奉行所の中、ドタドタと廊下を猛ダッシュで走り抜ける青年…と言うより少年

慌ただしく駆けるその少年、田村銀之助は一目散に所属先の新選組控え室に飛び込んだ

「アレ?…お前、田島さんと勉強してたんじゃないの??」

「それより、面白いこと聞いたンだよっ!」

探していたお目当ての人物、市村鉄之助が少し目を丸くさせる間に詰め寄せた田村は、
顔面間近に嬉々とした顔を近付ける

年下でありながら常日頃は余り喜楽を表情に出さない田村だが。
その田村が年相応に瞳を輝かせている様は珍しい

「面白い事って?」

田村は政府専属通訳の田島から、フランス語を習うのが習慣である。
今日はそれに出掛けてから、さほど時間が経っていない。
余程の事だろうかと、市村は小首を傾げた

「フランスで、お菓子の記念日があってさ。それが今日なんだって」

「お菓子の記念日?」

「大切な人にお菓子作って贈るンだよ。しよくらあとってんだ」

「しよくらあと…」

捲し立てるように説明を受けながら、市村はその単語をおうむ返しのように呟く

「土方先生に作って差し上げようぜ!」

肩へポン!と田村の手が置かれた

大切な人に、手作りのお菓子を贈る日。
そんな異国の風習を聞いた田村は、真っ先にその計画を思い付いてしまった。
それで居ても立ってもいられず、さっそく同士を募りに来たのだ

そんな事を聞いてしまったら、市村も参戦しない訳にはいくまい

いつも榎本のお陰で異国の風習には敏感な土方だが、『大切な人に』と言うのが重要だ。
そんな風習を耳にして黙ってはいられない。
愛すべき土方へ『しよくらあと』を贈るべく、いま二人の少年が立ち上がった
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