土×榎novel-SS

□歳の初め
1ページ/3ページ

握り締める懐中時計が、音を鳴らして時を刻む

カチカチカチカチカチカチカチカチ…


小刻みに動く細い針が11を過ぎた頃合い

残り僅か


榎本は静かに、静かに歩いていた

静かに、そしてゆっくり壁に手を付き伝い歩くのは、目蓋が綴じられているからだ



榎本は頭の中で握り締めた懐中時計の振動を数える

38…39…40……

未だ日本では使われていない時の数。
盲目の中でその数を数える合間、手探りで廊下の角を曲がった


ここの廊下の先…並んだ2つの扉を通り過ぎた3つ目の部屋



カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ…


46…47…48…

扉の前に来たところでトントン…と軽くノックをする

「早くここ開けて」

ガチャ―…

「あ?……」

榎本の呼び掛けに扉を開いた中に居た人物、土方が目を丸くした

「何してンだ…?」


扉を開けると目を綴じた榎本がただ立っている。
しかも土方の呼び掛けに答えもしない



カチカチカチカチカチカチカチカチ…


51…52…53…

「…おい」

一体何をしているのか。
そして、どうしていいのかも分からない土方


56…57…58…


そんな土方を無視し数秒…遂に榎本が待ち侘びた時が来た



59…………




「ひじか―…「副長」

「おぅ島田」

榎本が漸く目を開けたところには、
その同じとき榎本の後ろから迫る巨漢、島田を見上げる土方の顔があった

「………………。」

「総裁?」

「何しに来たンだよアンタ」

土方を見上げて微動だにしない榎本を土方と島田が見下ろす




「…ぅ…うぇ、ッ…」

「「!!!!!!!?????」」

突如、榎本の大きな瞳に雫が浮かびあがった
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ