土×榎novel-SS

□如月の寒明
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バサッ─…と派手に書類が宙を舞う。
高く上に放り投げたのは大鳥だ。
ヒラヒラと何枚もの紙が揺めきながらまだ漂っている最中、書類を撒き散らしたその手で次に
土方の襟元を掴み掛かる

「この分からず屋がっ!」

「煩ぇ!糞鳥っっ!!焼き鳥にして食うぞコラァ!」

こうして今日も、会議は二人だけで延長戦に突入である。
もう毎回の事で、誰一人として制止する者が居なくなった

部屋に帰って続ければ良いものを、頭に血が昇り切っては止めても聞かないのだから、気が済むまでやらせてやるしかない。
他の者も諦めて、榎本が解散宣言するまで眺めているしかないのだ

「榎本さん。先に御開きに─…」

見兼ねた松平が隣の榎本を見て、呆れ果てているかと思えば顔色が若干悪い。
顎に手を宛てて真剣を装おい前方を見据えているフリだが、
目蓋は今にも落てしまいそうである

「お疲れですね。昨日はまた夜更かしですか?」

「土方くんが帰ってから手紙を書いて─…3時間くらいは寝たよ」

もともと、やらなきゃ成らない事が有り過ぎて時間を惜しむような生活態度をしていた榎本だ。
相変わらず、そのような生活を今でもしているのだろう。
しかし最近では、口煩く咎める沢は室蘭に行ってしまい。
それが余計に悪化してきている

「早く終わらないかな…この後、圭介と木古内まで視察でしょ?」

「そうですよ」

「その後、夕方から安藤さまと会う約束があるんだけどさ」

未だに騒ぎ続けている二人を眺めて呟く。
しかし、よほど眠たいのか小さく欠伸を漏らす始末だ

遥々ここまで着いて来た大名との面会を早く済ませ。
時間に余裕が出来れば、帰りに外国人居留地に寄る事も可能である。そこでお気に入りの本を見付けたり。
趣味の骨董品を見て、珍しい実験道具を漁ったりする事が榎本の楽しみだった。
そんな事をしていて、夜は暇さえあれば土方の相手をして手紙や日記を書く。
よくもこの細身で、そんな日々に持ち堪えられるモノだと、
松平は改めて榎本の強靭さを知った

「この分じゃ、まだ当分は収まりませんねぇ…」

「仕方無いなぁ…」

「気が済むまで待ちますか。終わったら起こしますよ」

ギャーギャー喚き続ける土方と大鳥の二人。
榎本は溜め息を深く吐き出して、遂に机に伏せる

すると直ぐに小さい寝息が始まった。
この五月蝿さで仮眠に入ってしまったらしい。
限界を通り越したのか、神経が図太いのか…

松平はクスッと漏らして榎本の代理に、各自に解散宣言をした。
そして上着を脱ぐと榎本の肩へ、そっと掛ける

「アレ…─太郎さん。終わりなのか?」

ぞろぞろと退室して行く面々に、漸く我に還った大鳥が辺りを見回す

「あぁ、ここで聞いてるから気にせず二人は続けてくれ。今日はトコトン話し合えば良い」

松平の微笑みを見ると、直ぐ隣には榎本が机に突っ伏してお昼寝中だ

顔を見合わせた土方と大鳥は静かになってしまったが、ここで二人にまで御開きにされてしまうと、
せっかくの僅かな時間に寝付いた榎本を起こす羽目になる

しかし、大鳥は未だに腹が収まっておらず。
座り直してすぐ、フン!と鼻を鳴らす

「釜さんだって忙しいのに、君が無茶をさせるからだ。新選組なんかの剣術家と身体の造りが違うんだぞ。分かってるのか…?」

「俺が悪いってのか?」

「いま釜さんに何かあったら困る。釜さんが体調を崩したら君の責任だな!」

「どさくさで釜さんとか言ってンじゃねぇよ。当て付けか?ただの嫉妬じゃねの?格好悪…」

「何だとぉっ!?」

ガタンと椅子を跳ね避けて大鳥が再び立ち上がった

「独りで起きてたら訳の分からねぇ実験とかしやがるから、早く寝かせてやってンだろうが!」

「君の寝かせるとは睡眠の意味じゃない!!余計に疲れるわっっ」

「大声を出すな!榎本さんが起きちまうだろっっ。バカ鳥!!」

「君の声の方がデカいっ」

二人がどれだけ声を張り上げようが、やはり榎本はその最中も爆睡である

そんな榎本にとっては幸か不幸か、論点がすっかり摺れた言い争いは続き。
会議室から榎本がどうとか言う二人の会話が暫く響き続けた

「…蝦夷も少し、暖かくなってきたな」

それは白熱し続ける目の前の二人のお陰か、部屋の隅に置かれた西洋囲炉裏のお陰だろうか

松平も一つ欠伸を漏らして、窓の外をフと眺めた




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いやいや…2月はまだまだ寒い蝦夷です。
余りにも寒過ぎて、突発的に書いてしまいました。と言うか、ただ四人が書きたかっただけであります。
御拝読ありがとうございましたvV お粗末様です




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