土×榎novel-SS

□Prociphilus ofiens
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「うわぁっ……!」

「どうした?」

箱館山の視察に訪れていた榎本の護衛として一緒に山登りに励んでいた土方が

突然の後方からの叫び声に振り返った

「めッ…目にッ!」

後ろを歩いていた筈の榎本が立ち止まり。
地団駄を踏みながら仕切りに眼を手で擦っている

「目?痛いのか?」

「何か入ったの!取って…」

「デカイ目をしてっからだろ」

とか言うが、榎本の大きく粒羅な瞳は土方お気に入りの一つだ

土方はその擦っていた手を握り制止させると、目線を合わせ榎本の顔を覗き込んだ。
上目遣いの瞳は擦ったせいで潤み、今にも泣き出しそうに土方を見詰める

「何だ、コレかよ」

榎本の目尻に一つ黒い点を見つけ

フ、と息を掛けて飛ばした

「ひやぁっっ…」

息を掛けた途端、榎本は肩を震わせ声を上げた。
その声は擽ったさて甘味を含み。側に居る隊士らの目が一斉に向けられる

「副長。こんなトコで何やってンすか」

「違ェよ!!誤解すんな」

ニヤケる野村に慌てて弁解するが、
端から見れば顔を近付けていた土方が、榎本にキスをしているかの様に見えてしまう

「アンタも変な声を出すンじゃねぇ!」

「だって擽ったいんだもん!」

榎本は頬を膨らませる

「わッ…またっ」

山中のせいか、榎本の目がデカイのか。
再び榎本は頑なに眼を綴じて、ゴロゴロとする違和感に眼を擦り始める

「バカ、擦るな」

その手を素早く眼から離し顔を覗いた

「痛い!早く早く!」

その違和感から解放されたくて、手をバタつかせながら榎本自ら顔を差し出す

「分かったから、大人しくしろ」

と再び息を掛け吹き飛ばす

「やぁっっ―…」

やはり堪らない擽ったさに背筋がゾクゾクと身悶える榎本

「せめて人が居ない所でお願いしますよ…」

「だから誤解だ!信じてくれ大野っ!!」

周囲が頬を仄かに赤らめているのは、寒さのせいでは無いだろう
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