土×榎novel-SS

□scherzo
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からかってみた。
喧嘩してると遠慮なしに、意識もせず、顔がすっごく近くにあって。
口じゃあ彼をけなしながら、きれいな顔してるなぁって、そんなこと考えてた。
まつげ長いなぁとか、目も自分と全然違うし、鼻だってシュッとしてるし、とにかく綺麗な顔をしてる。
モテるだろうなぁ、そんで頭堅そうだから一途なんだと思う。
そう思ったら、からかってみたくなって。
そんで、からかってみた。
今チューしたらどうなるかなって、もしかしたら斬られるかもしれない。それはそれで困るけど、とりあえずからかってみた。

ん、って声が出たかと思ったらそのまま彼は固まっちゃった。
このまま舌入れちゃおうかなって、思ったけど、やっぱやめた。
人の気ないとはいえ一応、道端だし。この様子じゃ刀は抜かれないかも。
なんて言うだろ。口をゆっくりはなす。
このまま何事もなかったようにさっきの喧嘩の続きをされたら面白いのに、って思ったけどまぁされなくて。
彼は私を見たままで、固まったまま。
目を細くして笑うと、はっとして顔を赤くした。あ、何、その顔。口ぱくぱくさせて、ああいっぱい言いたいことあるんだ、でも何から言えばいいかわからないんだって思った。

「おま、」

「うん」

「くっ、」

「うん」

「意味わかんね、」

「顔真っ赤」

うるさい、と言われた。でもさっきの喧嘩と比べたら全然勢いなんかなくて、なんなんだろう、これは照れてんのかな?さらに真っ赤になってどぎまぎしてる。
とにかくこんな反応されるとは思わなくて、なんか胸がドキリとした。
やばいなぁ、からかっただけなのに。可愛いとか思っちゃってんの。

「好きでもない奴にンなことすんじゃねぇ」

頭固い。ほらね、やっぱりこの人は一途なんだ。おもしろい、そんで可愛い。
男に、ましてや年上に可愛いなんて、どうかと思うけど。とりあえず可愛いしか出ない。あはは、やばい。

「好きかも」

「…何、」

「ううん、好き」

「なん、」

「ねぇ、」

名前を呼んだら肩が小さく揺れた。
さっきの、さっきまでの威勢はどうしたんだろうね。
これ誰だろう。おかしい。彼は喧嘩してぶった斬ってやるとか怖い顔して言う人だって思ってたよ。いや、そうだった。からかっただけなのに、失敗した。
すっかり惚れてやんの。
なんか我慢できなくて、頬に触れた。触るな、って言う割にはその手を振りほどいたり、怒ってるわけじゃなく、困った顔をしてる。
何考えてんだろ。嫌われてたりするかな。有り得るかも、笑えない。
好かれてようが嫌われてようがどうでも良かったけど、今じゃ結構キツい。
やばいなぁ、からかっただけなのに。
こんな一瞬で好きになってやんの。

「もっかい、」

「…んだよ」

「していい?」

いい、なんて彼が言うはずないんだけどね。でも断りもしなくて、静かに私の方を見てる。駄目でしょうが期待しちゃうよ。
しちゃうよ、もっかい。
文句言わないで欲しいな、いつもと違ってなんか異常に可愛い君が悪いんだね。







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