土×榎novel-SS

□冷込む夜に side;土方
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何の前触れもなく急に手を握られた。
俺の知る限りの男にしては指が細くて白い手。なのに、やることなすことはどんな男よりも大胆で大雑把で不器用な男らしい手だ。
何かと思いその人を見たら、寧ろ向こうが驚いたような顔をしていた。
なんでそっちが目丸くしてんだよ。俺の手がそんなに珍しいか。

「…どうした」

いつものお得意なスキンシップってやつか。
まぁ振り払うほど嫌なことでもないから、取り敢えずはそのままにしておく。
だから向こうは不思議そうな顔をしつつも、決して手を離そうとはしない。

「ねぇ、君って冷え症?」

「は?」

「手冷たいからさ。そうなのかなって」

言ってから、さも大事そうにゆっくりと手をさすっている。

「あぁ…、まぁ。とくに気にした事ねぇけど。体温が低いって言われた事はあるな」

こう寒い時季は総じて自分の手足は冷える。
例えば布団の中に居ようが自分の体温で保温出来ず、
どうににかならないか鉄に言うと、アイツは生意気にも、俺の体温が低い所為にしたっけ。

「そっかぁ」

一人思い耽っている間に、向こうも一人で納得したのかしてないのかよくわからない反応をした。
だからまた別の質問をされるのかと思いきや、そのままふんわりと手を包んだまま黙りこくってしまった。
捕われた片手は相変わらず撫でられているまま。数分の時間が流れる。


「そんなに、手が気になんのか?」

「ん?なんか好きだなって思って」

「冷たい手が?」

「んーん、君の手が好き」

おいおい…次は何を言い出すんだよまったくコイツは。今のは無意識だ。ぜったい無意識で言いやがった。
向こうの顔を横目で見れば、なんだかやけに真剣に俺の手を見つめている。
この顔はおそらくなにか考え事をしているんだろう。
この人はよくこういう顔する。そして、こういう顔をしてる時は頭がフル回転していて口と行動が無防備になっている。だからポロッとあんな事を平然と言いやがる。
相変わらず手元をじっと見つめながら、じっくりと何かを思案しているくせに。
一体なに考えてんだ?まあ聞いたところで理解不能なことが多いが。
こういう本人も無意識なときの表情は、結構サマになってたりする。
でも、やっぱり真面目そうに見えて案外しょうもないことばっか考えてたりするからな。
何なんだよ。と思っていた矢先、一瞬手の動きを止め、なんかプッと噴き出した。ああほら、何か訳の分からないこと考えてやがる。

「…なに笑ってんだよ」

「あ、ごめんごめん」

さっきの真剣な顔はどこへやら、もうヘラヘラ笑顔に戻った。
あーヤダ。一瞬でも真面目そうとか可愛いとか思って損したじゃねぇか。もう放せよ。煙草も吸いてぇ。
そう思って手を引っ込めようとすると、逃すまいとがっちり握り直される。
こういうところはちゃっかりしてると言うか…。


「あのさ、もうちょっと手、握ってていい?」

「は?」

なにを今更。どうせ離せっても離さねぇくせに。
向こうからの答えはなくて、代わりに今までよりもちょっと強く手を握られる。
もう少しちゃんと握ってれば、少しは温めてあげられる気がするんだよね。そう言われた。
なんで温めようとしてるのか、何を思ってそんなことしてるのかが、俺にはよくわからないが、取り敢えず頷いた。
俺の手を包む柔らかい手から、柔らかい熱が伝わる。
その手を口元まで引き寄せられて、指先に小さく口付けされた。

「な…にしてんだ今度は」

流石に驚いて声を掛けるが、対する向こうは機嫌良さそうにニコニコ。
あーもう意味わかんねぇ。手じゃなくて、なんか別なところが、なんか胸の辺りがちょっとだけ温かくなったような、そんな気がする


「温かくなってきた?」

「まぁな…」

するりと手からすり抜けて。ほら、と相手の頬に触れた。
一瞬止まったあと、ぱっとそこが少し赤く染まる。

「アンタが温かくなった」

「な、」

あ、固まった。さっきは無意識でも俺の手が好きだと言ったのに。
意識をした途端に口は素直じゃなくなる。まあ、そのぶん体は正直なんだが。

可愛げのない可愛い文句を言われる前に手を離して、
俺はその手で煙草に火をつけた。








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寒くなってくるとこんなのが書きたくなってくる(笑)




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