土×榎novel-SS

□冷込む夜に side;榎本
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何気なく、ソファーの上に乗っかってた彼の手を取ったら思いのほか冷たくて、ちょっと驚いた。
筋があって細くて長い指、彼は、手まで、爪の先まで女が好みそうな感じ。
自分は女じゃないけど。嫌いだったら触ったりしない。
で、触ったその手が、まるで氷のようにひんやりと冷たい。自分が普通の人より体温が高いわけでもないのに、妙に落差を感じた。

「…どうした?」

彼は目を丸くした。そんなに驚かなくてもいいのに。
でも振り払われないから、私は彼の手を握ったままで

「ねぇ、君って冷え症?」

「は?」

ひんやりとしたそれを自分の両手で包みながら聞いてみる。
指の付け根に幾つか硬い胝があって、見かけは綺麗な手のそこだけが、凄くごつごつしてる。

「手冷たいからさ。そうなのかなって」

「あぁ…、まぁ。とくに気にした事ねぇけど。体温が低いって言われた事はあるな」

「そっか」

体温と手足が冷たいのは直接関係ない気もするけど。っていうか誰にそれを言われたのかな。
聞こうかなと一瞬思ったけど、せっかくのこの穏やかな雰囲気を壊してしまうような話しになったらイヤだから、止めておいた。

「そんなに、手が気になんのか?」

「ん?なんか好きだなって思って」

「冷たい手が?」

「んーん、君の手が好き」

手が冷たいなんて、彼にはあんまり似合わない気がする。
普段、時と場合によるけど、以外に賑やかな人なんだし、温かい人なんだから、
手はもっと暖かくてもいいと思う。
熱を分けてあげられたら、いいのに。
ふと、そんな気障な科白が頭をよぎって、つい思わず自嘲してしまった。


「…なに笑ってんだよ」

「あ、ごめんごめん」

うん、確かに今のはちょっと気持ち悪かったかも。
彼をまた驚かせちゃったみたいで手が逃げかけたけど、もう一度それをちゃんと両手で握り直した。

「あのさ、もうちょっと手、握ってていい?」

「あ?」

不思議そうに彼はこっちを見る。だけど拒否しないってことは、いいのかな。
もう少しちゃんと握ってれば、少しは温めてあげられる気がするんだよね。
彼はふーんと言った。冷たい感覚が溶けるようにじんわり伝わる。
その指先に、小さくキスを落とした。

「な…にしてんだ今度は」

彼の問いには答えず。代わりに笑って、
包んだ両手に少しだけ力を込めた。硬くてごつごつした胝が当たる。

「温かくなってきた?」

「まぁな…」

するりと私の手からすり抜けて。ほら、と小さく笑って私の頬に触る。
すると確かに、さっきより少し温かい…?けど、これはたぶん、


「アンタが温かくなった」

「な、」

自分がなにかを言う前に、
彼は声を出して笑いながら逃げるように手を離して、その手で煙草に火をつけた




side;Hizikata




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