土×榎novel-SS

□Bete a pleurer.
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のんびり廊下を歩いてたら、急にグイッと腕を捕まれ、廊下の陰に引っ張られた。
壁に押し付けられ、反射で瞑った目を開くと目の前には土方く…、鬼の副長様がいた。


「ビックリした…なに?」

「無防備。俺が刺客だったら、アンタ今ごろ死んでるぞ」

互いの鼻の先が付くくらい近くにいる彼の眼の奥が、刃みたいに冷ややかに光ってる。不機嫌そう。
感情が表に出やすい人だ、と思う。

「苛々してるよね」

「煙草を切らした」

「それで総監に当たろうとしてるの。規律が成ってないねぇ」

「黙れよ」

「黙らせてみれば?」

ちょっと挑発的に言うと、漸く彼はキスをした。
いつもみたいに苦くない。
随分前から煙草を切らしてたのかな。そんなところに丁度良く私を見つけたってところだろうか。

なんだか自分は煙草代わりみたい、と思った。
彼の口が暇になれば口喧嘩をしたり、キスをしたり。
思えば、彼が煙草を吸ってる時、わざわざ止めてキスなんかしないもんね。
そう考えると煙草に負けてる気がする。
だってこの人は煙草中毒で、私中毒ではないわけだから。

「煙草やめたら?」

離れた彼に言ったら。彼は無理だと即答する。

「俺、煙草ねぇとダメだし」

彼の言葉に私は文句は言わなかったけど、なんだか胸の内がもやもやした。

「苛々してんのか?」

口寂しさを紛らわせて満足したのか、彼は私を見て笑った。
今度はこっちが不機嫌になった。腹立つ。
ご機嫌取りしてよ。テメェがいないと俺はダメだって、口説いてくれたらいいのに。

彼は私の気も知らないで、「買ってくる」と一言残して、立ち去ってしまった。
いろいろと、勝手な人。
身勝手なその後ろ姿を自分は暫く睨み付けた。









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