土×榎novel-SS

□天才とナントカは紙一重
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「君って顔がいいわりには色恋に疎いよね?飽き性だし。君の子どもを産みたいっていうヒトもいるわけじゃないし。女性を煙草と勘違いしてない?美味しく頂いて燃え尽きたらあっさりポイ捨て。みたいな。そして、君は毎回私の中に射精するよね。世の中に子供が欲しくても無精子で出来ない人もいるのにさ。君は私の中に元気な精子を出して、そして掻き出して、さようならするわけじゃん。君、それについてどう思うわけ?」

榎本さんの発言のせいで、周りの人間が明らかに嫌な目で俺たちを見ている。
ちょ、オイオイこんな公共の場で何言い出すんだ。
しかも真っ昼間だぞコラ。
小さな子供からじいさんばあさんまで居る全年齢対象の飯屋に居る訳だが、そんな所で精子の話を大きな声でするなってンだ。
有り得ねぇよ。怒ってるのはわかったが、場所と時とテメェの立場を考えろバカ野郎。

「な、もうちょっと小さく喋ろよ」

「なんで君は必死こいて作り上げた精子を簡単に捨ててしまえるのか、考えてって言ってんの」

俺の言葉を無視して相手はさっきと同じ声のトーンで言う。
考えてみろだ?お前が状況を考えろ。店員が睨んでるぞ。
指差されながら俺は訳のわからない事を説教されてるみたいに言われている。
大体考えてみろってなんだ。種について考えたこともねぇ。
そんなもの俺に限らずちり紙の中で役目を果たさない精子なんて沢山あるだろ。
つーか、テメェはどうなんだ。いつも俺の前でテメェが出してるモノを棚に上げてんじゃねぇよ。
と、そんな事を俺はこんな公衆の面前で反論はしねぇよ。俺は。

「私が好きだからそんな事してるんだよね?私を怒らせて私と別れるってんなら今までの君の精子はどうなるわけ。ああ可哀想。一つの命になるはずだったのにさ」

何が?何がかわいそうだって?かわいそうなのは俺の方だろうがバカ。
こんなに周りから視線を感じたのは、あのダンダラで都の大通りを闊歩していた以来だ。
こいつは頭が悪いのだろうか。いやいやそんな筈はねぇだろ。コイツがよく言うアレか。天才と紙一重ってヤツなのか。
大声で精子なんて、節操も何もあったもんじゃねぇ。ホント何してんのこの人。
口を開かないでただ見てると、聞いてんの!?と相手は言う。聞こえてるから嫌なんだよチクショウ。
あぁもうどーにかしてくれ。バカだ。こいつバカだ。
そもそもなんで精子の話?

「だから君は私に嫌われちゃいけないわけ。じゃないと精子が報われないんだよ。OK?」

「あーはいはい」

「じゃあ熱燗、追加ね」

「…はいはい」

榎本さんは嫌な目を向けている店員の一人をお構いなく呼んで、酒を注文した。去り際に不審な目を向けられた。
ていうかおかしい。
そうだ酒だ。昼飯を食いに来て、普通に2人で飯食って。
この人が酒を追加したいとか言うから、まだ昼間だし、仕事あるし、一杯で我慢しろって言ったらキレられて喧嘩になった。
しかしおかしい。
なんで精子の話?榎本さんは何も気にしてないようだが、俺は一刻も早くこの場から立ち去りたい。
って言うかもうここには来れねぇよ。ったく…


「俺が報われねぇよバカ」

運ばれてきた酒を榎本さんは、とても満足気に、美味そうに呑んだ。




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総裁の頭は稀にバグを起こします




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