土×榎novel-SS

□a rival in love
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思った以上に自分は甘えたがりやで、寂しがりやで、
思った以上に彼に依存している。つまり、自分が思う以上に女々しい。
そして思った以上に、彼は冷たかった。
強がったり意地も張るけど耐えきれ無くて。いちいち構いに行くのはいつも自分から。

今日もずっと長椅子一杯に俯せて寝転びながら本を読んでいるのに焦れて、
そっと近付き肘掛けに座って、額にチューをした。
それでも彼は無反応で相変わらず本を読み続ける。
非番の本日も洋式兵法のお勉強に余念が無い。
努力家とか勉強熱心とか言うよりもコレはただの負けず嫌いだと思う。
彼には、それはそれは気高いプライドが備わっていて。こうして陰ながら人一倍の努力を惜し気も無くしている。
まぁ、それがいけない事では無いし。立場的には頼もしい限り。
それに表面上はいつも崇高な軍神様が、こうして私の傍で陰ながら努力している所の“陰”の部分を気兼ね無く見せてくれているのに嫌な気はしない。
だけど食い入るように坦々と本を読み込んでいる彼。
戦が恋人ですか?ちょっとそれは物騒すぎやしないかな?人間以外に嫉妬したのも初めてだ。
もやもやしつつまたチューしてみた。額に頬に目蓋に鼻先に。
彼はくしゃくしゃ私の髪を宥めるよう撫できた。けど本から視線を離さずに。
でも構いかけて来てくれた事に満足して笑うと、彼も漸く顔を上げて満面で微笑った。


「邪魔」

腕でグッと押されて肘掛け部分から落とされそうになった。けど、なんとか踏ん張ってやった

「詰まんない」

「テメェも本でも読めや」

せっかく2人で居るのに、2人でそれぞれ読書してたら2人で居る意味無いじゃん。
思いっきり不満が顔に出たらしくて、
肘掛けに乗っかる私の膝に仰向けになった彼は頭を乗せ。本を上向きに再び読書を再開した。

「あと少し。昼飯にもまだ早ぇじゃねぇか」

なにコレ。スキンシップとかすれば私が大人しくなるとでも思ったのかな?滅多にして来ないクセに。
だから稀にこー言う事をしてくる時は、ご機嫌取りにしか見えなくて素直に嬉しいとは思えない。

それどころか無性に腹が立って、彼の顔を遮ってる本を奪い取る。
あ、と呟いた声を知らぬ素振りで彼を見下ろした

「昼までのその少しの間、出掛けよ。外食するのもいいじゃん」

「ダメだ。今日は部屋に居るって島田に言っちまったしな。黙って居なくなるとアイツうるせぇの知ってンだろ?」

いま確かに2人きりで居て、情人の特権みたいな膝枕なんかもしてる筈なのに、
どうして彼を独占している満足感も自覚すらも感じられないんだろう。不思議でしょうがない。


自分たちは、それはそれはいつも目を回すほど多忙だったり、自由のようで行動は制限されている。それに文句を付けるつもりは無いけど、

「詰まんない」

不自由だからこそゆっくり出来る時間は大切にしたいと思うし。
2人の空間をちゃんと共有したい。と言えば、彼は面倒臭そうに溜め息を吐いた

「今日は自棄に甘えるな、我が儘め。それを返せ」

「ヤだ」

眉間に皺が寄った。それを鏡に映したよう自分も同じ顔をする。
我が儘も自己中心的なのもお互い様。そのうえ、
思った以上に彼は冷めてるけど、思った以上に自分は甘えたがりやで、

「君が思ってる以上に、私は君のこと好きだよ」

自分が思う以上に依存してるようで。だから女々しい程に寂しくもなって、構ってほしくもなるわけで。
そう言ったら、わかった。と笑いながら引き寄せられた頭がまた、よしよしって撫でられる。
それで異様に気分が好くなって思わずつられて笑った

「本はもういい。眠くなってきた。昼までこのまま寝かせろ」

「えー、次は昼寝?」

膝上で横向きに寝返るこの身勝手がさっそく瞼を綴じるところへ三度目のチューをした。
いや、おやすみのチューでは無くて。擽るみたいに顔の色んな所に沢山する。

「じゃれるなバカ」

顔を寄せ合って笑いながらバカみたいにじゃれて遊んでいると、静かに訪問者が訪れた。
扉の隙間からそっと入って来たのは、港で甲賀くんに拾われた真っ白い子猫。
すっかり庁舎に住み着き、今ではここの住人になった源吉だった。
思わず2人して動きを止め、じっとこちらを眺めてきたその小さな訪問客を見る

「アンタの遊び相手が来たぞ。構ってやれよ」

「今日は君と遊びたい気分だからいい」

優雅に尻尾を揺らしながらゆっくり長椅子の側に歩いて来たその子猫を彼は見詰めたまま、

「アンタが構ってやらないなら、俺が構ってやる」

名前なんだった?と訊いてくるから、ミケランジェロだよ。って嘘ついたのに、「源吉」って呼びやがり。
少し身じろぎ寝転ぶ長椅子に空けた隙間をポンポンと叩き、来るよう促した。

すると、その子猫は身軽に飛び乗り。彼の横で途端に大人しく丸くなった。
飼い主でも無い彼に普通に懐いてるみたいで、言う事を聞いた猫に彼も気分を良くしたようで、
小さく丸まる背中を撫でながら、いい子だ。と嬉しそうに呟いた。
彼は見掛け…普段の赴きによらず小動物とか子供とか実は結構好きらしい。

「さっき、じゃれるなって私には言ったのに。なんで猫は許すの」

「じゃれてねぇだろ。猫の方がテメェより静かで聞き分けが良いな」

なんか言い様のない焦れったいような不満が沸々と沸いてきた。なんか、妬く。


あ、今日だけで人間以外に妬いたのはコレで二回目になっちゃった。






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ライバルは他にも煙草とか沢庵とか俳句とか風呂とか(笑)沢山います。



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