宝物

□神を殺した男
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―プロローグ―



今日も。

いつものしけた酒場で、どこにも行き場のない想いを抱えて胃袋に酒を詰め込む。

いつも通りの代わり映えしない、くだらない日常。
酔っては怒鳴るので、最近は取り巻き達ですら傍によってこない。

黙って杯を乱暴に流し込む。
喉を焼く不快感が胸に広がり、頭がぼーっとしてくる。

それでも忘れられない、あの声、あの姿。

今日はやたらそれが鮮明に思い起こされて不愉快だ。

強かに酔った耳に、微かに雨音が届く。
屋根を叩く雨音。初めは遠慮がちに、そして徐々に強く激しく。
雨音は次第に耳慣れぬ男の声となって酔いが回った頭に流れ込んできた。

『……虎俊さん……御神木を……神を……巫女を……自由に……あなたしか……いない……』

渇いた心に雨の形を取った言葉はじんわり滲んで、それは記憶の扉へと染み込んでいく。

そうだ、そう言えば……あの日も……雨が降っていた……。










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