キリ番
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今夜、眠る前に。
赤毛の子供が、私の手を握る。
へらりと笑うので、私も微笑を返した。
「ジェイドの手、ちょっと冷たいな」
「貴方の手が熱いんですよ」
「そうかな?」
こうして一緒のベッドに入るようになったのは、いつ頃からだっただろうか。
最初はルークにせがまれて、という形だったのが、いつのまにか共に眠るのが自然になっていた。
(これも、ルークのもつ力、なんでしょうかねぇ)
不思議だった。
私はどちらかと言えば、他人との接触は得意ではない。しかし、ルークに触れられて嫌だと思ったことは、実は一度もないのだ。
「なぁ、ジェイド?」
「なんですか?」
若干緊張した面持ち。握った手にも力が籠められる。
気付かないふりをしてやるのが、大人の度量というものだろう。
「あー……やっぱ、なんでもない」
情けない笑顔だと思った。
本当は口に出してしまいたい。でも言ってしまわなくて良かった。そんな顔だ。
知っている。私は、彼が何を言いたいのか、知っている。
「ルーク」
「…なに?」
消えてしまう前に私の熱を感じたい。繋がりたい。しかし、その甘さを知ってしまったら、消えることがもっと恐ろしくなってしまうのではないか。
それが、ルークは怖いのだ。
「全てが終わったら。…好きにしていいですよ」
息を呑んだ音が聞こえた。
私相手に隠し通せていると思ったのだろうか。
――ややあって。
「……ずるいよ、ジェイド」
俺の身体のこと、誰よりも知ってるくせにと、子供が泣きそうな声で詰る。
「…そうですね。貴方はそう遠くない未来、」
音素乖離を起こして、死ぬ。
音にこそしなかったが、その内容を知っている――いや、解っていると言うべきなのか――ルークは、少し身を固めた。
「ですが――私とて、自分の出した結論を否定したいことくらいあるのですよ」
自嘲気味に落とした言葉に、ルークが驚いたような顔で私を見る。そして。
「ジェイド…っ」
存外に力強い腕が、私を抱き寄せた。縋りつくようで、包み込むような、不思議な抱擁。
それが、泣きたくなるほど温かくて。
――キスをひとつだけ。
その夜は、それだけで眠った。
寂しさを埋め合わせるかのように、手のひらを繋いだまま。
END
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千尋さまに捧げます。
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