キリ番
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君となら、どんなことだって出来る。
そんな、気がした。
May I...?
「ユージーン〜、ボクお腹すいたよー」
「そうだな…よし、ここらへんで昼食にしよう」
ユリスを倒し、ヴェイグ達一行は三回目の旅をしていた。
位置的にはミナールに近いが、町までは結構距離がある。
ユージーンの声を聞いて、各々は荷物を草の上に降ろした。
その中からティトレイが必要なものを取り出して、簡易調理場をこしらえ始めた。
前回の旅で、もう各々の役割が決まっていた。
ヴェイグが水場で水を汲み(水場が無い時は他を手伝う)、マオとユージーンが薪(木の枝)を拾い、アニーとヒルダが食材を探す。
そして料理そのものをするのがティトレイというわけだ。
「それじゃティトレイさん、行ってきますね」
「おう、気ぃつけてな!」
ティトレイをその場に残して、五人は近くの林に入っていった。
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「お、ヴェイグお帰り。早かったなぁ」
銀髪の青年が、水の入ったボトルを腕に抱えてこちらに歩いてくるのを見て、ティトレイはそう声をかけた。
「ああ、入ってすぐのところに泉があったからな…」
ティトレイはそっか、と笑って、差し出されたボトルの一つを受け取った。
ボトルの口を開けて、自分の手を濡らす。その間に、ヴェイグは他のボトルを何本か調理台に置き、あとは荷物の中にしまった。
まだ他の者は帰ってきていないが、先に下ごしらえをしておこうと思い立ち、ティトレイは食材袋を取り出した。
――ミルクの期限が近いから、早く使ってしまおう。
じゃがいもとニンジンもあるから、…そうだな、クリームシチューがいいだろう。
そんなことを考えていると、後ろから声を投げかけられた。
「…ティトレイ」
「ん?どした?」
「その、オレにも、手伝わせてくれないか…?」
思いがけない申し出に、ティトレイは目を丸くした。
それをどうとったのか、ヴェイグは慌てて言った。
「あ、別に、迷惑だったら、いいんだ」
その慌てた様子が可愛くて、ティトレイは頬が緩むのを抑えきれなかった。
「別に迷惑だなんて言ってないだろ? ヴェイグが手伝ってくれるんなら大助かりだぜ」
そう言ってにっと笑いかけると、ヴェイグが頬を赤く染めて、俯いた。
その様子を、やはり可愛いと思いながら、ティトレイはヴェイグの頭を撫でた。
「よし、じゃあ作ろうぜ!」
ヴェイグがこくりと頷いたのを手のひらで感じて、ティトレイは再びにっこりと笑ったのだった。
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「んー…おいしーい!」
「そうだろそうだろー。なんたって今日はヴェイグが手伝ってくれたからな!」
「えっ、ヴェイグさんが?」
皆の視線を受けて、ヴェイグが目を伏せる。髪の間から、赤く染まった耳が覗いていた。
「…オレは……オレが手伝ったのは、ほんの少しだけだ」
「あら、照れなくてもいいじゃない。このニンジンとじゃがいも、切ったのあんたでしょ? 初めてにしては良い線いってるわよ」
そう。確かに今日が初めてというだけあって、包丁を握る手つきは非常に危なっかしかったのだが、練習さえすればすぐに上達しそうだった。
ヒルダの言葉にふわりと笑みを浮かべてから(彼は以前より笑うことが多くなった)、ヴェイグはティトレイの方を向いた。
「…ティトレイ、すまなかった。手伝うどころか、足を引っ張ってしまっていたな」
すまなそうにしているヴェイグに、ティトレイは愛しさが湧き上がってくるのを感じた。
「全然構わねぇよ。ヴェイグと料理すんの、すっげー楽しかったからな!」
だから気にすんな、とティトレイが笑うと、ヴェイグもつられたように微笑った。
「ありがとう、ティトレイ。…また、料理を手伝ってもいいか?」
「ああ、勿論だ!」
ヴェイグに力強く頷き返して、ティトレイは不格好なじゃがいもを頬張ったのだった。
END
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柊さまに捧げます。
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