キリ番

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※ロイ→クラ前提ロイ+しい





その薄い唇が、自分はクルシスの四大天使だと、俺たちの敵だと言った時。
俺は、どうしようもない憤りと、深い悲しみに襲われた…。




想いの果てに




フウジ山岳からメルトキオまでは意外と距離があって、まだ王都に着いていないのに日が暮れてしまった。
夜間に無理に移動するのは自殺行為と言っても過言ではない。
ロイド達は、敵の気配の無い場所を探して、野営をすることにした。





「みんなぁ、ご飯ができたよー!」

ジーニアスがそう言うと、思い思いのことをしていたパーティは焚き火の周りに集まってきた。
しかし、人数がひとり足りない。

「あれ、ねぇロイドは?」

「ロイド? …あら、どこへ行ったのかしら」

「そういえば、さっき林の中に入っていくのを見たね…。ちょっと探してくるよ」

しいながすっと立ち上がった。

「ありがとう、しいな。お願いするわ」

リフィルの言葉にしいなは頷き、林の中へと駆けていった。





林の中を流れる小川の前で、ロイドは蹲っていた。
泣いてはいない。が、それに近い状態ではあった。

「クラトス…」

怪しい、と思っていなかったと言えば嘘になる。
でも、信じていたかったのだ。

その理由は、一つ。

「俺、こんなにあいつのこと好きなんだな…」

旅の最中に生まれた淡い恋心は、今もなおロイドの中で息づいている。

だから、困るのだ。

「あいつは、敵、だ……。敵なんだ…」

そう自分に言い聞かせてみるが、完全にそう思うことが出来ないのだ。
かといって、彼が味方だとも、今のロイドには考えられなくて。


信じたい。
信じられない。


「はぁ…」

ロイドは溜息を吐いて、手探りで掴んだ小石を小川に投げ入れた。
ぽちゃん、という音と同時に、予想していなかった音が降ってきた。

「何してんだい、こんな所で」

「うわっ!?」

突然後ろから声をかけられて、ロイドの肩は大袈裟なくらい跳ねた。
慌てて振り向くと、そこには腰に手をあてて呆れたような顔をしているしいなが立っていた。

「な、何だ…しいなか…」

そう言うとまた小川の方を向いてしまった。

「何だい、人を化け物みたいに。…夕飯だよ」

しかしロイドはそこから動かない。

「ロイド…? どうし、」

「なぁしいな、俺、どうすればいいのかな…」

唐突な問い掛けに、しいなが首を傾げる。

「クラトスの、こと、なんだけど…」

「ああ…」

ロイドがクラトスに想いを寄せていることは、はた目から見ればバレバレだった。知らないのは想いを寄せられている本人だけだろう。
最も、今となっては気づいていたのか本当に気づかなかったのかは定かではないが。

「…俺、わからないんだ」

「わからないって…何がだい」

「あいつは…クラトスは、俺たちの、敵だ。わかってはいるけど、認めたくないって思ってる自分がいるんだ。だからって、あいつは味方だ、って言うことも出来ない。だってあいつは確かに、自分はクルシスの四大天使だって言ったんだから。……俺は、どうしたらいい…?」

そう言って俯いてしまったロイドに、しいなはそっと声をかけた。

「じゃあさ、あんたはどうしたいんだい?」

「俺…?」

「そうさ。あんたはクラトスのこと、どう思いたい?」

その言葉に、ロイドは顔をあげた。

「クラトスは…クルシスの天使で…でも、俺に剣術を指南してくれた…助けて、くれた…。あいつは、何だ…?」

また思考の無限ループにはまってしまったロイドに、しいなは苦笑した。

「質問を変えようか。あんたは、クラトスを信じるのかい? 信じないのかい?」

「、俺は…」

旅の中でのクラトスを思い出す。
確かにクラトスはロイドに対して厳しかったけれど、基本的には優しかった。
その厳しさも、どちらかというと父親のそれで。
そして、眼差しには鋭さの中に温かさが秘められていた。
極めつけは『死ぬなよ』の言葉。


何とも思っていない人間に、そんなことを言うだろうか?


「…俺、は。クラトスを信じたい。いや、…信じる」

だって、彼が好きだから。
その真意を聞くまでは、とりあえず信じてみたい。

「ふふ、それでこそロイドだね。うじうじしてるのは似合わないよ」

「…俺、そんなにうじうじしてた?」

「そりゃあもう、炸力符でぶっとばしたいくらいだったよ」

「はは、おっかないな。……ありがとう、しいな」

ロイドが礼を言うと、途端にしいなが真っ赤に染まった。

「な、何言ってるんだい!ほら、早く行かないとジーニアスにどやされるよ!」

くるりと背を向けて、そのまま歩いていってしまった。

「あ、おい! 待てよー!」

先ほどの表情が嘘のように、ロイドは吹っ切れた顔をしていた。


想い人を、信じると決めたから。想い続けると決めたから。


少年は仲間のもとへと駆け出した。
強き信念を胸に。



信じるよ、クラトス。
いつか真意を聞ける時が来たら。
その時には、俺もちゃんと言うから。

好きだ、と――。



END


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奏姫さまに捧げます。




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