キリ番
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「あんた、今日は足元に気をつけたほうがいいわよ」
「え…」
怪我の功名?
今日のティトレイは、本当によく転ぶ。
街では石に躓いて転び、草原では草に足をとられて転び、バイラスとの戦闘では何も無いところで転ぶ。
そんな彼を見かねて、一行は早々に宿をとった。
「いてて…くそ、ヒルダの占い大当たりじゃねぇかよ…」
ティトレイはベッドに腰掛けて、悪態をついた。
露出が少ないのが幸いして大きな怪我はしていないのだが、鼻の頭を擦り剥いてしまっていた。
「ティトレイ、大丈夫か?」
例によって同室の蒼銀の髪の青年が、絆創膏片手に声を掛けてきた。おそらくアニーに貰ったものだろう。
「おう、大丈夫だ。ちょっと痛いけどな」
「ヒルダの占いはよく当たるな…」
感心したように言いながら、ヴェイグはティトレイの目の前まで来た。
朝食の席で、ティトレイはヒルダに自分の今日の運勢はどうかと聞いたのだ。その答えが冒頭の台詞である。その時は、まさかこんなことになろうとは思いもしなかったのだけれど。
「見せてみろ」
青年は、ティトレイの頬を両手で包み込むようにして顔をあげさせた。
「あぁ、まだ少し血が出ているな…」
ヴェイグが心配そうな声色で言うのを、ティトレイはドキドキしながら聞いていた。
(近いなぁ…)
青年の整った顔がティトレイの顔を(正確には鼻の頭を、だが)覗き込んでいて、ともすればキスが出来そうな距離だ。
ぼんやりとしていたティトレイは、その唇が何と言っているのかほとんど聞いていなかった。だから、ヴェイグの次の行動に硬直してしまった。
ぺろっ
鼻の頭に、生暖かく柔らかい感触。
遅れて、それが目の前の青年の舌だとわかった。
「ヴェ、ヴェイグ…っ!?」
「しみたか…?」
「いや、しみたわけじゃねぇけど…えっと、消毒?」
「聞いていなかったのか? 薬草が無いらしくてな。…嫌、だったか?」
そう言うヴェイグが可愛くて、ティトレイは思わず青年を抱きしめた。
「ティトレイ?」
「お前可愛すぎ! 嫌なわけないだろ?」
下から覗き込んで、にっと笑ってみせると、ヴェイグの頬に朱が走った。
「なんか怪我して得したなー」
「馬鹿…」
青年は呆れたように溜息を吐いて、ティトレイの鼻の頭に絆創膏をペタリと貼りつけた。顔は赤いままだ。
「なぁヴェイグ、キスしていいか?」
「…何故」
「したくなったからさ。なぁ、いいだろ?」
「…すればいいだろう。いちいち聞くなっ」
ヴェイグがこうして可愛くないことを言うのは照れ隠しだと知っているので、ティトレイは満足気に笑った。顔を真っ赤に染めて目を背けながら言うため、逆に可愛いくらいだ。
「じゃあする」
頬に優しく触れると、まるで条件反射のように、青年がそっと目を閉じた。
ティトレイは愛しげに目を細めて、ヴェイグの唇に自分のそれを重ね合わせた。
擦り傷の痛みも、ほとんど感じなくなっていた。
ヒルダの占いに感謝、かな?
END
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柊さまに捧げます。
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