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□モノクロ・アソート!〜シャム猫編
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※しげ→←ひい
しげるにとって、九条院ひいなというひとは憧れの女性だ。
気高くて、上品で、美しい。
(だから、シャム猫って正直ぴったりだと思うのよね)
…というのは繋がらないような気もするが。
ともかく、猫の耳としっぽが生えてしまったひいなを見て、しげるが抱いた感想は『合っている』だった。
「なんだか逆に悪い気がします。パジャマとか、替えの下着まで用意してもらっちゃって…」
「いいのよ。私が無理を言ったんだもの」
九条院家までやってきたしげるは、そこで一晩泊まっていかないかと提案された。
突然の異変で、ひいなも心細くなっているのだろう。
必要なものは貸してくれると言うので、しげるは言葉に甘えることにしたのだ。
「ごめんなさいね、しばらく客間を使っていなかったものだから、掃除をしないといけないわ」
「あ、あの。それならあたし、ひいな先輩と一緒がいいです」
「え?」
「ひいな先輩の部屋で、今日はがっつりガールズトークがしたいです! …ダメですか?」
しげるの提案に、ひいなはきょとんとしていたが、やがて目元をやわらげた。
「いいけれど、ベッドが狭くても文句はなくて?」
「大丈夫ですっ」
「ふふ。じゃあ枕だけ用意するわね」
「やったあ!」
思わず飛びはねたしげるを、ひいなも笑顔で見ていた。
ひいなはああ言っていたが、キングサイズのベッドはふたりで乗っても十分な広さに思えた。
「わあ、先輩かわいい〜」
しげるはタータンチェックのシャツパジャマを借りたのだが、ひいなが着ているのはふわふわした素材のネグリジェだ。
猫の耳としっぽと相まって、ひいなを普段より幼く見せていた。
「これが一番気に入っているの。…私のイメージじゃないかしら」
「ううん、とっても似合ってます」
ひいながふわりと微笑む。
「来宮さんも、よく似合っているわよ」
「あ、ありがとうございます。先輩のパジャマってやっぱり大人っぽいのが多くて…これならあたしが着ても変じゃないかなって」
――それから二人でベッドに横になり、他愛のない話に花を咲かせた。
しげるもひいなもこういった経験には乏しかったので、時間を忘れて語り合った。
「そういえば、ご家族が家にいないことって多いんですか?」
「そうね…忙しい人たちだから。海外に出ていることも多いし。……もっとも、いてもあまり変わらないけれどね」
(あ……)
しげるは、ひいなが両親とは不仲だという話を向こうの世界で聞いていたことを思い出した。
(無神経なこと言っちゃったかな…)
何よりも『絆』を求めていた、向こうのひいな。
それには家庭環境も大きく関わっていたのだ。
「…そんな顔しないで」
そんなことを考えていたら、顔に出てしまっていたらしい。
ひいなの苦笑した顔が目の前にあった。
「あのね、向こうの世界よりは、まだましなの。なんとか『家族』としての関係を築いているわ」
「先輩…」
「でも……そうね。たまに家で一人でいると、少し切ないような気分になったりもしたわ…」
ふっと目を伏せたひいながいつもより小さく見えて、しげるはそっと手を伸ばし、ひいなの頭を撫でていた。
「あ…」
触れられた茶色の猫耳がぴくんと跳ねて、まるくなった瞳がしげるを見つめた。
「あっ、ごめんなさい」
手を引っ込めたしげるを見て、艶やかな唇がゆっくり弧を描く。
「いいえ。気持ちがいいわ」
その言葉に、もう一度ひいなの髪に手を伸ばすと、うっとりと目蓋が閉じられた。
初めて触れる、ひいなの心のやわらかい部分。
一部分が猫になってしまったことも関係しているのだろうが、それでもそこに触れるのを許されたことに、しげるは胸のふるえを覚えた。
「ねえ、来宮さん。もう少しだけ…そうしていてくださる?」
「はい。ひいな先輩」
そうしてしげるは、ひいなが眠ってしまうまで、優しく撫で続けていた。
しげるにとって、九条院ひいなというひとは憧れの女性だ。
気高くて、上品で、美しい。
そんなひいなにも、寂しいとか、甘えたいとか思うときはあるはずで。
思いがけず心の内が聞けて、しげるは嬉しかった。
高貴なシャム猫が、いつでも弱音を吐き出せるような存在になりたいと、そう願うのだった。
シャム猫編 END
あ…あれ…猫耳あんまり関係ない上コメディちっくでも無くなったぞ…。
最初はすぐに眠くなっちゃった(猫だから)ひいなさんがしげるに甘えてきてドッキドキ☆な話だったんだけどどうしてこうなった。
ひいなさんは強い女性だけど、たまには甘えたいときもあるんじゃないのかな。でも普段は弱い自分を出さないの。
という妄想。
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