文章♭

□ねがいごと
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※アオハル参入前



夕暮れに染まる歩道。放課後、部活からの帰り道。

ふと、前を歩く背中に手を伸ばしかけて、やめた。
不自然に上がった腕に対して何か言われるかな、と思ったけれど、隣を歩くさゆりは意外にも何も言わなかった。確実に見えていたはずなのに。

シドウは振り向かないけれど、こちらを気にかけていないわけではなく、むしろ歩く速度は一人のときよりゆっくりだ。それは僕の、というよりはさゆりの歩幅に合わせているんだけれど。

すごいなって、思う。

剣道の腕はもちろん、折れない精神力も、案外優しいところも。その背中は特別広いわけでもないのに、しなやかな強さが滲んでいる。

だから同時に、遠いなって思う。

シドウは僕を信頼してくれているけれど、それに足るような自分には、まだなれていない。
僕は彼が思っているより、ずっと弱い人間だ。だから、彼の言葉はくすぐったくて、少しだけ申し訳なくなる。
早く、その信頼に見合うような僕になりたい。

――強くなりたい。

「なあヒロト。奴さんはオメーが弱くても、隣にいることは許すと思うぜ?」

シドウに聞こえないくらいの声で、さゆりが僕に囁く。

「うん…そうなのかもしれない」

でも、僕が嫌なんだ。

その答えを聞いて、さゆりは満足そうに笑った。

「クロガネ。俺、こっちだから」

「あ、うん。また明日ね、シドウ」

片手をあげて応えたシドウが、こちらに背を向ける。

いつか。いつか、君の横に胸を張って並べる僕になりたい。
いや、そう遠くない未来に、必ずなるから。

その時には、僕のこの気持ちも伝えられると思うんだ。

僕は拳をぐっと握って、さゆりと共に家路を急いだ。



END




憧れのひと。



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