文章♭
□ねがいごと
1ページ/1ページ
※アオハル参入前
夕暮れに染まる歩道。放課後、部活からの帰り道。
ふと、前を歩く背中に手を伸ばしかけて、やめた。
不自然に上がった腕に対して何か言われるかな、と思ったけれど、隣を歩くさゆりは意外にも何も言わなかった。確実に見えていたはずなのに。
シドウは振り向かないけれど、こちらを気にかけていないわけではなく、むしろ歩く速度は一人のときよりゆっくりだ。それは僕の、というよりはさゆりの歩幅に合わせているんだけれど。
すごいなって、思う。
剣道の腕はもちろん、折れない精神力も、案外優しいところも。その背中は特別広いわけでもないのに、しなやかな強さが滲んでいる。
だから同時に、遠いなって思う。
シドウは僕を信頼してくれているけれど、それに足るような自分には、まだなれていない。
僕は彼が思っているより、ずっと弱い人間だ。だから、彼の言葉はくすぐったくて、少しだけ申し訳なくなる。
早く、その信頼に見合うような僕になりたい。
――強くなりたい。
「なあヒロト。奴さんはオメーが弱くても、隣にいることは許すと思うぜ?」
シドウに聞こえないくらいの声で、さゆりが僕に囁く。
「うん…そうなのかもしれない」
でも、僕が嫌なんだ。
その答えを聞いて、さゆりは満足そうに笑った。
「クロガネ。俺、こっちだから」
「あ、うん。また明日ね、シドウ」
片手をあげて応えたシドウが、こちらに背を向ける。
いつか。いつか、君の横に胸を張って並べる僕になりたい。
いや、そう遠くない未来に、必ずなるから。
その時には、僕のこの気持ちも伝えられると思うんだ。
僕は拳をぐっと握って、さゆりと共に家路を急いだ。
END
憧れのひと。
Blue