文章♭

□夕焼け空の向こう側
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※『e55 トワイライト』ネタ。壮絶なネタバレにつき注意。






『――――君。帰ったら――――』

――夕日の向こうには。

『もうすぐ――――だ。――――でもするか』

――別の世界があるのだと。


――いったい誰が言ったのだっけ。



夕焼け空の向こう側



最近の僕は、少しおかしい。
書類を手に小さく溜め息を吐く。

校庭からは、部活動に励む生徒達の声。
生徒会室には、会長である僕、祀木ジロウと、副会長の栗須リョウがいる。
隣の席で書類整理を手伝ってくれている栗須は、少し人の良すぎるところもあるが信頼のおける奴で、僕の一番の友人だ。

その栗須に最近、不思議な感情を抱く瞬間がある。
彼が急にいなくなってしまうような、いや、どこか遠くて暗い場所に囚われてしまうような。
そんな非日常的なこと、起こるはずないのに――。

「祀木、手が止まっているよ」

「え、あ。……すまない」

「いいよ。疲れているんじゃないのか?」

少し休憩にしよう。と言って栗須は立ち上がり、外へ出ていった。

(疲れている、か……)

ある意味では、そうなのかもしれない。
靄のような感情に振り回されている自覚がある。
考えても仕様のないこと。それなのに、振り払えない。

程なくして戻ってきた栗須の手には、二本の缶コーヒー。
そのうち一本が差し出されたので礼を言って受けとると、栗須はにこりと笑って元の場所に腰を下ろした。

「缶コーヒーってあまり飲まないんだけど、たまに飲むと結構美味しいよね」

「ああ、栗須は紅茶派だったか」

「うん。家にいるときは専ら紅茶だね」

落ち着くんだ、と微笑む柔和な横顔。

彼の、笑顔は。
見ると何故か、とても安心すると同時に、心が震える。
元々の顔立ちが整っているせいも、あるのかもしれない。(実際、彼は女子に大変人気がある)
けれどそれだけではない何かが、胸を突き動かすような気がするのだ。

「あ、見て祀木。夕日が綺麗だよ」

「…、本当だ」

煌々と燃える夕日が、生徒会室を照らしていた。
明日は間違いなく晴れだろうと、僕はぼんやり思った。

「――知っているかい?夕日の向こう側には、別の世界が広がっているんだって」

ふと、誰かがその話をしている光景が頭に蘇る。
けれどその記憶は曖昧で、彼が誰なのかわからない。

「…でも不思議なんだよなぁ。それをいつ誰に聞いたのか、覚えがないんだ」

スコット牧師もそんな話は知らないって言うし。
その言葉を聞いて、僕は目を見開いた。

「…同じだ」

「え?」

「僕もその話を知っている。そして、いつ誰に聞いたか覚えてないんだ」

栗須も目を丸くした。

「そうなのかい?…偶然?にしてはあまりにも…」

僕達は自然と、夕日に目を移していた。
どこか陰を帯びた赤色の光。
いつか見たような。そう、こんな風に誰かが隣にいて――。

瞬間、チャイムの音が室内に響いて、身体が跳ねあがるほど驚いた。
同じく驚き顔の栗須と数秒見つめあって、お互いに軽く吹き出す。

「なんか、変なこと考えちゃったね」

「ああ。…結局整理も終わらなかった」

「まあそれはいいじゃないか。期限があるわけじゃなし」

「それもそうだな」

栗須が鞄を持って立ち上がる。僕もそれに倣って。

「それにしても、あのまま夕日を見つめてたら、あっちの世界に吸い込まれちゃってたかもね」

ドクン、と胸が大きく波打った。
彼が、いなくなる?
――『また』僕の傍からいなくなる…?

歩き出そうとした栗須の手首を、咄嗟に引き留めた。
掴んだそれは思っていたより細くて、彼の身体に初めて頼りなさを覚えた。

「え……祀木?」

栗須がとても不思議そうな顔をしたけれど、掴んだ腕は離せなかった。…離したくなかった。

――もう二度と、独りにはしない……――

頭の中で、聞き覚えのない自分の声を聞いた気がした。





***

というわけで別世界のふたりでしたー。
あの校門のやりとりで頭がパーンして書いちゃいました。
祀木が…祀木がクリスのこと『栗須』って呼んでる…しかもタメ口…!?
あんまり年齢操作とか好きじゃないんだけど、なんか滾ってしまいました(笑)

なんか同級生な祀栗だと、先輩後輩のときより距離がありそうだ。というかくっつくのすごく遅そうだ。…そもそもくっつくのか?



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