文章♭

□私の時間
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屋上から街並みを眺めて、ゆるく息を吐き出した。
二年ぶりの景色は、懐かしいような目新しいような、不思議な感じだ。
でも頬を撫でる風は、以前と変わらないかな。

二年。僕が、この世界にいなかった期間。

影化しているときはとても長く感じたけれど、一部が変わっている以外は大きな変化もない街を見ていると、そう長い期間でもなかったのかな、とも思う。

二年。長くて短い、不思議な時間。

「クリス先輩。ここにいたんですね」

「祀木」

エニグマによって集められた後輩達によって、僕は救われた。
彼らがいなければ、僕は今もあの場所を彷徨っていたのだと思うとぞっとする。
だから彼らにはとても感謝している。特に、僕の救出を願ってくれていた祀木には、感謝をしてもしきれないくらいだ。

「街を見てたんですか?」

「うん、二年ぶりだから、何か変わったかな、と思って」

「変わってましたか?」

「あっちに新しい建物が出来てて、こっちの店がなくなっている」

ああ、と言って祀木はそれぞれ説明をしてくれた。
まあ二年も経てば、店の一件や二件、増えたり減ったりするものだ。

「…僕は、本当ならもう十九になるんだよなあ」

影化していたときは成長が止まっていたらしく、僕の外見は二年前のままだ。
対して、目の前の後輩はすっかり見違えてしまった。
それが寂しいのか嬉しいのか、よくわからない。

独り言めいた呟きだったけれど、祀木は律儀に反応してくれた。

「僕は、先輩と同学年になれて嬉しいです」

「ああ、そういう見方もあるか。それは…そうかもしれないね」

前に(と言っても二年前の話になるが)祀木が、『一年が二年の教室を訪ねるのは勇気がいる』と言っていた。
だから大抵は僕が祀木のクラスに行っていたけれど、それだって居心地のいいものじゃなかった。
それを思うと、気軽に会いに行ける今の状況は悪くないかもしれないと思った。

「祀木。二年は、長かった?短かった?」

「………」

…あ、無神経な質問をしてしまったな。
難しい顔をして、祀木は黙りこんでしまった。

「え、と。ごめん。なんでもないんだ、」

「……長かったです」

忘れてくれ、と言おうとしたときにぽつりと落とされた言葉。
…危うく聞き逃すところだった。
祀木の瞳は、まっすぐに僕を見ている。

「長かった。あなたのいない二年は、とても」

「あ、」

「先輩を忘れる日なんてなかった。早く助けに行きたくて、でも」

「……」

「情けない自分じゃ迎えにいけないと思って、先輩に誇れるような自分になりたくて」

「うん」

「勉強もちゃんとしたし、生徒会の業務もこなして」

「…うん」

「…先輩を取り戻せて、本当に良かった」

「祀木…」

祀木の言葉に胸がいっぱいになって、うまく声が出ない。
でも言わなくちゃ。彼が言ってくれたように、僕も自分の気持ちを。

「…僕はね、祀木。二年の間、おまえをずっと恨んでいたよ」

「先輩」

「だけど、それと同じくらい、僕はきっとおまえに会いたかった」

「………っ!」

「うん、…やっぱり僕にとっても、二年は長かった」

手を伸ばして、祀木の頬を伝う雫を拭う。
僕も鼻の奥がツンとしてる。
けれど僕は、笑ってみせる。

「おまえに会えない二年は長かったよ、祀木」

「…クリス先輩っ」

急に腕を引かれて、僕は祀木の胸へ収まった。
祀木の涙が僕の首に落ちて、彼の想いを感じる。
ああ、やっぱりおまえ、大きくなったなあ。

「先輩、僕は、」

耳元で聞こえる必死な声色。

「僕は、あなたが好きです」

きっと祀木の顔は赤いんだろう。
それを聞く僕の顔も、きっと。

「…うん。僕も、おまえが好きだよ」

答えたら急に堪えていたものが溢れて、祀木の肩を濡らしてしまった。
けれど祀木が、僕を抱きしめる腕の力を強めたから、今はそれに甘えることにする。

二年。それは僕らが想いを募らせた、時間。





END





十代の二年って大きいと思うんですよね。
ということでテーマは『空白の二年』と『クリスの実年齢』でした(笑)

同名のボカロ曲とは何ら関係ありませんが、『ゆーあーまいますたー♪』なクリスもそれはそれでおいしかったかもね(←)


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