文章♭

□泣きそうなのは誰のせい
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「なんでもいっこ、言うこと聞いたる!」

せやからほら、お願い言うてみぃ、と。胸を張った金太郎に言われ、俺は瞳を瞬かせた。

部活が終わって、俺が残って部誌を書いているところだった。
珍しく金太郎が残っていたから不思議に思ってはいたが、まさかこんなことを言い出すとは。

話を聞くに、今度は誰にそそのかされたのか『一日一善』を掲げだしたらしい。

(…なんか間違うてるで、金ちゃん)

まあ、お願いしたいことなんてたくさんある。…『一善』の相手に俺を選んでくれたことが、実は結構嬉しい、のだけれど、それは一旦置いといて。
本人が何でも聞くと言っているのだから、これはいいチャンスだ。

と、頭ではそう考えていたのに、なのに、俺の口から出た“お願い”は。

「ほんなら、俺に……ちゅー、してくれへんかな、」

自分で自分の発言に驚いた。
今まで我慢していたものが、ぽろりとこぼれ落ちてしまったみたいな唐突さだったから。

金太郎が透き通った瞳で俺を見つめるから、背中にじわりと嫌な汗が滲む。

(これじゃ俺、変態や…)

自分で自分の思考にへこみつつ。
しょうがない、金太郎が不快そうな反応を示したら、冗談だと言えばいい。それで解決だ。

「ええで!」

「………、へ?」

(って、ええんかい!)

邪気のかけらもない笑顔で了承され、良心をちくちくやられたが、言ってしまったことは取り消せない。

――金太郎の純粋さを利用した、俺は卑怯者だ。
だけど、普通に考えて、金太郎が俺をそういう意味で好きになってくれるとは考えられなかったし、これっきりにするから許してほしい。

金太郎の両手が俺の頬を包んで……って、えっ。

「――ん、」

心臓が飛び出るかと思った。

ちゅー、って言っても俺が考えていたのはせいぜい頬止まり。…いや、唇にしてほしいって気持ちはあったけれど、それを望むのは贅沢だと思ったから。

「ふ、ぅ、」

唇同士が擦り合わせられる感覚に、思わず吐息が漏れてしまう。
ただ触れ合っているだけなのに、なんで、なんでこんなに。

「――しらいしぃ」

至近距離から声が聞こえて、瞑ってしまっていた眼を開く。
案の定、また唇が触れてしまいそうな距離で。
まっすぐな、それでいて不思議な色に染まった視線が俺を射抜いた。

「なぁ、もっかいしたらアカン?」

「――え?」

もっかい、って。

「ちょ、金ちゃ、」

まだいいとも悪いとも言ってないのに、また唇が塞がれた。

さっきの擦り付け合うようなキスではなく、今度は鳥が啄むように唇が触れてくる。
ちゅ、ちゅ、とリップ音が鳴るたび、俺の頬が熱をもっていくのを感じる。
頭を占めるのは、なんでとかどうしてとか、疑問ばかり。それもだんだん唇の感触に塗り替えられていく。

そうして満足したのか、顔を離した金太郎は、満面の笑みを浮かべた。

「白石、かわええ顔しとる」

「……ッ!?」

自分でどんな顔をしているか判らず、咄嗟に顔を隠そうとすると、その手が金太郎に捕らえられた。

「あっ、隠さんといてやぁ」

「…なんでや」

俺としては、金太郎に『かわいい』なんて言われてしまう顔など見られたくないのだけれど。

「もっと見たい」

思わぬ発言に不覚にもドキリとしていると、更なる爆弾が投下された。

「あんなぁ、ワイ、白石のこと好きやねん!」

「え、っ」

………もっと早く言ってほしかった。
まったく、俺がぐちゃぐちゃ悩んでたのがばかみたいだ。

抱きつかれるまま、金ちゃんの肩に顔を埋めた。
そうでもしないと、熱くなる目頭と震える唇が隠せそうになかったから。




END





じつは両想いでしたっていう^^



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