文章♭

□一面にちらばる真鍮の屑
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少年は、この手が好きなのだと言う。

「嘉禄の手、あったかい」

そう言って擦り寄る无を、嘉禄は不思議な気分で眺めた。

この『息子』は元が動物だからか、スキンシップが好きな傾向にある。
嘉禄自身は、自分の手が特別温かいとは思っていないが、无にとっては違うようだ。
もっとも、比較対象がいない、というのも一因なのだろうけれど。

「…手が温かい人はね、心が冷たいんだよ」

もちろん、迷信である。
と言うより、『手が冷たい人は心が温かい』という俗説を逆にした、意地悪な言葉だ。

しかし、そんなことなど知らない无は、どう受け止めるだろう。
そんなことないと言うだろうか、それとも悲しそうにしてみせるだろうか――。

不意に无が抱きついてきて、バランスを崩しかけた嘉禄は驚いて少年を見る。

「无?」

「嘉禄の心、つめたい…なら、俺があっためてあげる!」

「えっ…」

その反応は想定外だった。
熱を分け与えているつもりなのだろう、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる腕の一途さに、嘉禄は笑ってしまった。

「嘉禄?…あったまった?」

「うん。ありがとう、无」

頭を撫でてやれば、嬉しげに目を細める。
嘉禄の言葉を疑わない純粋さは、喜びと悦びを同時に満たす。

「でも、もう少し温めててくれる?」

「うん、いいよ」

そしてまたぎゅう、と巻きつく細い腕。
无の柔らかな髪がシャツ越しに触れて、くすぐったさに笑みが零れる。

「いつでも、俺があっためてあげるから、ね」

不思議な居心地の良さに、嘉禄はそっと瞼を閉じた。




END






タイトル提供元:いなずま


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