文章♭

□覚醒まであと少し
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一瞬、呼吸を忘れた。







放課後。人吉善吉が生徒会室に足を踏み入れたとき、中に生徒会長と会計の姿はなかった。HRが長引いているのかもしれない。

生徒会役員が到着する順番は固定ではないけれど、善吉が最後になるパターンが何故か多い。
だから、こんなシチュエーションは稀、なのである。

善吉の視線の先には、書記である阿久根高貴がいる。
それだけなら何のことはない、見慣れた光景である。
だというのに挨拶のひとつも発せられなかった理由は。

「寝て、る…?」

阿久根は穏やかに寝息をたてていた。
膝の上には開いた状態の本。机に伏せるのではなく椅子の背凭れに体重を預けていることから、彼に眠る気はなかったことが伺える。

一歩、彼に近付く。
阿久根のこんな無防備な表情を、善吉は見たことがなかった。
一学年上ということもあってか、彼は気の抜けたところをあまり見せないから。

元々整った、涼しげな顔立ちの持ち主ではあるけれど。
瞼を下ろした彼はいつもとは違い、あどけない印象を善吉に与えた。

(てかまつげ長…)
(髪の毛とかサラサラで柔らかそう)

魅入られたように、視線は阿久根から動かない。

(……触りてーな)

まるでここだけ時が止まったかのよう――。

「ん…」

阿久根が小さく身じろいだことで、善吉は我に返った。
気が付けば、さっきより阿久根との距離が近くなっていて。
頭にかああっと血が上る。

(俺は今、何を――!)

幸い阿久根はまだ夢の中にいるようで、善吉はほっと息を吐いた、ら。

「善吉。そんなに熱心に見つめておると、阿久根書記に穴が開いてしまうぞ」

「ッ!?」

声を掛けられて勢いよく振り返ると、いつのまにか幼なじみがそこに立っていた。
少々呆れたような表情である。

「め、めだかちゃん、いつからそこに? つーか、熱心になんて見てねーよっ」

「そうか? 私が部屋に入っても気がつかないくらいには夢中だったと思うが」

「ぐっ…」

確かに、と思ってしまった時点で善吉の負けなのだった。


それからすぐに阿久根は目を覚まして、生徒会室で眠ってしまったことをめだかに謝っていた。(彼女はそれを「まだ喜界島会計が来ていないから」と許していた)
が、善吉にはどうでもよかった。というより、気にする余裕がなかったのである。

――寝顔がかわいいなんて思ってしまったのも錯覚だ、と。
善吉は頬の熱をもてあましながら、半ば意地のように考えていた。



END





まだ自覚前みたいです。



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