文章♭
□コーヒーにミルクはいかが?
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「お疲れ様です、ジョット様。コーヒーをどうぞ」
それは、ジョットがこうして書類整理をしていると決まって差し入れをしてくれるメイドの台詞と、寸分違わぬものだった。
しかし、それに返す「ああ、ありがとう」の言葉は、今日に限って出てこなかった。
何故なら、その台詞を発した声は、男性のものだったから。
「……マリエッタはどうした?」
件のメイドの名を出すと、カップを差し出している人物がにこりと笑った。
「彼女なら、今頃玄関の掃除に精を出しているのではないかと」
そんなことが聞きたかったわけではない。が、目の前の男にまともな返答を期待するだけ無駄だと、ジョットは早々に諦めた。
「そうか。…で、おまえは何故使用人の真似事などしているんだ、デイモン?」
まっすぐに見つめて名を呼んでやれば、D・スペードは笑みを深めた。
「ふふ、たまにはいいでしょう?」
「何がいいんだかオレにはわからないが」
アラウディほどではないが、このデイモンという男も結構気まぐれだ。
苦笑しつつコーヒーカップを受け取ると、芳ばしい香りが鼻孔をくすぐった。
「飲んでみてください。自信作ですから」
「、おまえが淹れたのか?」
「はい」
正直に言えば、そんなイメージがないので驚いた。
ジョットはデイモンが家事、またはそれに準ずる行為をしているのを見たことがなかった。
この男でも自分でコーヒーを淹れることがあるのか…と些か失礼なことを考えながら、カップに口をつけた。
「……うまい」
「それは良かった」
表情は然程変わっていないが、嬉しいのだろう。頬が仄かに紅潮している。
「先日、出先で偶然良い豆を手に入れまして、これは是非ともボスに、と思ったのです」
臆面もなく言ってのけるデイモンに、ジョットは微笑みで返す。
「ありがとう。本当に美味しい」
それは心からの賛辞。
再びコーヒーを口にすれば、デイモンが足元に跪く。
何事かと思いカップを机に置くと、反対側の手を取られ、その甲に唇が落とされた。
まったく気障なやつだ、とジョットは内心でわらう。
「僕はあなたのためなら何だって出来るのですよ、mio diletto」
END
イタリア語は『私の愛しい人』。
初代の時代に飲用としてのコーヒーがあったかどうかとかはスルーの方向で(笑)
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