文章♭
□シュガーハニー
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ぷつん、という音を聞いた。
それはテレビの電源が落ちる音のような気もしたし、頭の中の何かが切れる音のような気もした。
とにかくその音を合図に、僕は隣にいた藤くんの肩を掴んで、その場に押し倒していた。
「アシタバ?」
綺麗な蜂蜜色の瞳が、純粋な疑問だけを浮かべて見上げてくる。
それを見つめ返して、僕はちいさく深呼吸をした。
藤くんが僕に警戒心を抱かないのは当然のことだと思う。
僕がもし彼の立場だって、今まで普通に友達として接してきた同性に、ましてや僕みたいなのに、警戒なんてしないだろうし。
でも、もう僕達は単なる友達じゃないんだし、家に二人きりって状況なんだから、少しはこう、なんかあるかも?って思ってほしいっていうか、正直恋人としての僕を意識してほしいんだ。
「ねえ、藤くん…」
顔の両脇に手をついて、完全に馬乗りになった状態。
落ち着いて見える藤くんを見下ろす僕の心臓は、ばくばくうるさい。
「どうした?」
「その……キスしても、いい…?」
…こういうところが、僕が草食系とか言われる所以なんだろうか。
情けないけど、藤くんを無理やりにどうこうするなんてこと、僕には出来そうにない。
軽く目を瞠っていた藤くんは、小さく笑って。
「いいぜ」
そう言って瞼を伏せた、その顔があまりに無防備で、思わず触れるのをためらってしまうほどだった。
そっと手を伸ばして、ガラス細工に触るみたいに触れると、藤くんが目を閉じたままくすりと笑った。
「アシタバ、くすぐったい」
「あ、ごめんっ」
慌てて手を離すと、すっと開く瞳。
「ばか、責めたんじゃないよ」
甘い笑みと一緒に腕を首にまわされて、心臓が大きく跳ねた。
「――はやくキスしてほしい、って言ったんだ」
「………!」
…本当に、藤くんは僕を煽るのがうまいと思う。
その一言で、僕は馬鹿みたいに藤くんのことしか考えられなくなって、そうして。
花びらみたいな唇に、そっとくちづけた。
(おさとうのようなきみ。)
END
精神的な立場は藤くんのほうが上だと思うんだ。
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