文章♭

□白旗宣言
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ぶつん、という音を聞いた。
それはテレビの電源が落ちる音のような気もしたし、頭の中の何かが切れる音のような気もした。
とにかくその音を合図に、俺は隣にいた親友の肩を掴み、ソファーに押し倒していた。

「謙也?」

褐色の綺麗な瞳が、純粋な疑問だけを湛えて見上げてくる。
それを見つめ返して、俺は小さく唾を飲み込んだ。


白石が俺に警戒心を抱かないのは無理もないことだ。というか、当然だと思う。
俺がもし白石の立場だって、今まで普通に親友として接してきた同性に、警戒なんてしないだろう。
でも、もう俺達は単なる友達ではないし、家に二人きりって状況なんだから、少しはこう、なんかあるかも?って思ってほしいっていうか、ぶっちゃけ恋人としての俺を意識してほしい。

「なあ、白石…」

顔の両脇に手をついて、完全に馬乗りになった状態。
それでも白石は、普段と同じ表情のままだった。

「なんや?」

「その……ちゅーしても、ええかな…」

…こういうところが、俺がへたれと言われる所以なんだろうか。
情けないけど、白石を無理やりにどうこうするなんてこと、俺には出来ない。

軽く目を瞠っていた白石は、小さく笑って。

「ええよ」

そう言って瞼を伏せた、その顔があまりに美しくて、思わず見惚れてしまった。

(睫毛とか、長すぎっちゅー話や)

まじまじと見ていたら、待ちくたびれたらしい白石がすっと目を開けた。

「…せぇへんの?」

「すっ、するで!」

もう一度目を瞑ってもらって、今度こそ、艶やかな唇にキスをした。

「ん、」

触れるだけのキスを繰り返して柔らかさを堪能していると、白石の唇が誘うように薄く開かれた。
堪らず舌を差し入れて深く絡ませる。

「ふぁ、んン…」

白石の鼻から抜ける声も、ちゅくちゅくという水音も、俺の興奮を煽る材料だ。
その興奮のままに白石のシャツの裾から手を入れると、組み敷いた身体がびくりと揺れた。

「ちょ…謙也っ!?」

突然、ぐいっと押し退けられてしまう。顎が痛い。(悔しいけど、力は白石のほうが上だ)

「なんや、あかんの?」

「あかんっていうか…ここでするつもりなん?」

リビングで、というのがお気に召さないらしい。
誰もいないのだからいいじゃないか、と俺は思ってしまうのだけれど。

「…ベッドがええ?」

俺の問いに小さく頷くことで答える白石に、無理強いなんて出来るはずもなく。

「…わかった」

降参した俺に、白石が小悪魔的に微笑む。計算だと解っていても毎回引っ掛かってしまう、俺の馬鹿さ加減が恨めしい。

「謙也、好きやで」

――嗚呼、どうやらこの綺麗な恋人に、俺は勝てそうもない。



END





惚れた弱みってヤツです。



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