文章♭
□あなたのしろいせなか
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※金蔵←光
本日の部活動も滞りなく終了して、各々帰宅するために制服へと着替えていた。
俺、財前光もその一人だ。
ユニフォームを脱いでズボンを履き、ワイシャツを羽織ったところで、部室のドアが開いた。
(あ…)
色素の薄い綺麗な髪に、しなやかな手足。利き腕に巻かれた包帯。
オサムちゃんに呼ばれていて遅くなった、白石部長だ。
何とはなしにそちらを見ると、視線に気付いた部長が笑いかけてきた。
「財前。お疲れさん」
「…お疲れっす」
それだけで胸が高鳴るなんて、どうかしている。
何とはなしに見たなんて、嘘だ。本当は部長を視界に収めたかった。
俺は白石部長に恋をしている。
いったん外した視線をもう一度向ける。部長はポロシャツに手を掛けて脱ごうとしているところだった。
――そうして現れる、白い背中。
部長はどうやら日に焼けにくい体質らしい。テニス部は基本的に外で活動するから当然色付いてはいるものの、同じくらい外で運動している他の部員と比べたらその差は歴然だ。
そんな彼の、日に当たらない部分の白さは本当に同性かと目を疑うほど。
もちろん綺麗に筋肉のついた身体は華奢とは言い難く、同じ男だと判るのだけれど。
滑らかな白い素肌から目が離せなくなって、暫し見惚れていた。
――その白に、突然赤が混じるまでは。
「しらいしーっ」
「わっ。こら、金ちゃん」
まだ着替えの途中なんやけど、と言う部長の表情は柔らかい。
「たこ焼き買うて帰ろー!」
部長の背中に抱きついた遠山は、猫科が甘えるみたいに頭を擦り付ける。いや、“みたい”ではなくて本当に甘えているのか。
「あはは、金ちゃん、わかったからやめえ。こそばゆいわぁ」
くすぐったさに身を捩って笑う部長に、どうにかしてしまいたい衝動が沸き上がる。実際には俺の身体は少しも動いていないのだが、誰かに伝わってしまうような気がして、静かに劣情を収める。
恋というものは厄介だ。
俺が手すら伸ばせない無防備な背中に、何の躊躇もなく触れられる遠山が、たぶん羨ましくて、妬ましい。
「光? どないしたん、マネキンみたいに固まって」
隣にいた謙也さんが不思議そうに声を掛けてきた。着替え途中の俺とは違い、すっかり帰宅準備が完了した姿だ。
「いや、…仲ええなあ、って」
「…ああ、白石と金ちゃんか」
俺の視線の先を見た謙也さんは、納得したように頷いた。
「白石は面倒見ええし、金ちゃんも兄貴みたいに思うとるんやろ。結構一緒におるしなぁ」
微笑ましい、と言わんばかりの声色。だけど、それはちょっと違うのだと、俺は知っている。
ただ面倒見がいいだけなら、あんなに甘い笑みを浮かべたりしない。
ただ懐いているだけなら、あんなに嬉しそうな笑みを浮かべたりしない。
一緒にいるのは、彼らがそうしたいからだ。
「…知っとったけど、謙也さんて鈍いんすね」
「な、なんや急に? てかどういう意味やねん!」
「そのまんまの意味っすわ」
うるさい謙也さんを放っておいて、着替えを再開する。
いつの間にか赤毛が離れた白い背中は、白いシャツに覆い隠されてしまっていた。
END
光は白石のこと好きすぎるといい。
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