文章♭

□ゆびさきにチェリー
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左手薬指に、ぴり、とした痛み。次いで、じん、と広がる熱のような痛み。
同じ手の親指でそこを擦れば、ぬるりとした感触。
目を向けてみれば。

「あ、…」

爪が、割れていた。




ゆびさきにチェリー




(あーあ…)

伸びているのは知っていた。けれど、なかなか切る暇が無かった。爪切りが見つからなかった、というのもある。
つまりは様々な要因により面倒になっていたのだ。
だから割れたのは自業自得で。
それでも、しばらくぼうっと血を見ていたら、良く知った気配が近づいてきた。

「千種?どうかしましたか?」

六道、骸様。
彼は俺の手元を見て、ああ、という顔をした。

「やっぱり割れちゃいましたか」

だから爪を切りなさいと言ったのに、と洩らしながら、骸様の手は俺の左手を包み込んだ。

骸様が、自分に触れている。
それだけで、思考回路が停止気味になってしまう。
心臓がうるさくなっているのがバレやしないだろうか。

そんなことを考えて俯いていたから、骸様がにやりと笑ったのに気づかなかった。

「痛いですか?」

彼にそう問われて、改めて傷に意識を向ける。
どうやら血は止まったようだ。

「…少し」

嘘は吐いていない。
多少じんじんするものの、そこまで気になるほどではない。

「そうですか」

そう言った骸様の顔が、俺の手に近づいて。
ゆびさきに、くちびる、が。

「む、くろ、さま…」

呆然と呟くと、彼はにこりと笑った。

「痛くなくなるおまじない、です」

「!……ッ」

何が起こったのか理解するのと同時に、全身に熱が広がった。
頭が沸騰しそうだ。

「で、効果はありましたか?」

…ああ、確かに効果はあった。
指先は今や別の熱が支配していて、痛みなんて吹っ飛んでしまったのだから。
しかし、だからこそ問題なのだ。
爪の割れた痛みより、遥かにこちらのほうが気になってしまうのだから。
骸様の唇が触れたところが、熱くて熱くてどうしようもない。

「………いいえ」

俺がそれだけ返すと、骸様は楽しそうに笑った。予想通りの返答だったのだろう。
彼のことだから、俺が何を考えて否定の語を発したのか、それさえお見通しに違いない。

「千種がまた怪我をしたら、いつだっておまじない、してあげますよ」

額に触れて、ちゅ、と音を立てて離れていくそれを見つめながら、そこは怪我していませんが、と言ったら、骸様は今度こそ笑い転げた。



END


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タイトル提供元:いなずま


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