文章♭
□やわらかな朝
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※事後。
朝起きて、隣に温もりがあることに安堵した。
やわらかな朝
カーテンの隙間から差し込んだ光に目蓋を叩かれ、綱吉は目を覚ました。
ゆるりと眼を開けて、壁に掛かっている時計を確認すると、ちょうど九時になったところだった。
いつもなら『遅刻だッ!!』と慌てふためくところだが、今日は日曜日。
ついでに言えば、今この家にいるのは綱吉ともう一人、隣で眠る麗人だけなので、彼が起きるまでは寝ていたって構わないのだ。
しかし綱吉には、もう寝直す気は無かった。
眠る彼の顔を愛しげに見つめ、ほうと溜息を吐く。
ああ、綺麗だな。
恋人を見つめる度に、綱吉はそう思う。
長い睫毛も、額にかかるさらさらの髪も、淡く色付いた唇も。
どこをとっても芸術品のようだが、一際美しいのはその漆黒の瞳だ。
彼の感情を映して鮮やかに輝く黒曜石は、周囲の人間を惹き付けるだけの魅力を持っている。
そしてその宝石を、自分は手に入れたのだ。
未だに信じられないが、でも確かに彼は今綱吉の腕の中にあって。
思わず頬をつねりたい衝動に駆られてしまうのも無理はない……と思いたい。
勿論これは夢では無いのであって、いくら懸念してみたところで幸福な現実は覚めなかったりする。
昨夜だって綱吉の愛撫で妖艶に咲き乱れてみせたのだ。
プライドの高い彼が、どうとも思っていない人間と身体を重ねるなんて、ましてや受ける側にまわってくれるなんて、考えられない。
それだけ愛されているのだと、自惚れてしまってもいいのだろうか。
そこまで考えて、綱吉ははたと気付いた。
昨日、そのまま寝ちゃったんだった…!
二人が裸で寝ていたのも、それで説明がつく。
自分はいいが、彼はナカも洗わなきゃいけないし、と。
そう考えて、綱吉は一人で赤面した。
ともあれ、風呂を沸かすべく身を起こそうとした綱吉だが、恋人の「ん…、」という小さな声に動きを止める羽目になった。
繊細な睫毛がふるりと揺れて、ゆっくりと瞳が姿を現す。
一連の動きに、綱吉は惚けたように見とれていた。
「なに、へんなかお、してるの?」
「…へ!?」
言われる程変な顔をしていたのだろうか。
綱吉がとっさに自分の頬を押さえると、麗人はくすりと笑った。
朝の彼には常の鋭さがなくて、普段とは違った美しさなのだ。
それを独り占めしているのだと思うと、綱吉の胸は優越感に高鳴った。
この美しい鳥は、自分の肩にとまってくれたのだ、と。
「まぁ、いいや。おはよう、綱吉」
「おはようございます、ヒバリさん。あ、急いでお風呂沸かしますね」
「……ああ、綱吉のがまだナカに…」
「い、言わなくていいんですっ!」
臆面もなく言ってのける雲雀に、綱吉のほうが赤面してしまった。
すると彼がくすりと笑って抱きついてきた。
「ひ、ヒバリさんっ?」
「…もうちょっと、このままがいいな」
至近距離での微笑み。
簡単にノックアウトされた綱吉は、一も二もなく頷いた。
綺麗な恋人の可愛いわがまま。
甘えられているのだと思うと、純粋に嬉しかった。
「ヒバリさん……すき、です」
細身の身体を抱きしめ返すと、雲雀が僕もだよ、と囁いた。
とてつもなく幸せだと感じた、日曜日の朝だった。
END
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