文章♭
□Sleeping Beauty
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珍しいな、と綱吉は思った。
綱吉が応接室に足を踏み入れた時、雲雀はソファに身を横たえて眠っていた。
勿論眠っていることが珍しいわけではない。
珍しいのは、綱吉が近づいても目を覚まさないことだ。
普段の彼は些細な物音でも目を覚ましてしまうほど眠りが浅いのだが、今、綱吉が眠る彼の横に来ても、いっこうに起きる気配が無い。
信用、されているのだろうか。
雲雀の眠りが浅いのは、周りの人間を信用していないからだと綱吉は思っている。実際それは当たっているのだろう。
そんな彼が深い眠りに就いていられるのは…。
単なる自惚れだろうか?
することが無いので、綱吉は雲雀の整った顔を見つめていた。
そこらの女生徒より白くてきめ細やかな肌。
意外に長い睫毛。
鋭い光を放つ漆黒の瞳が目蓋の奥に隠されてしまうと、随分と印象が変わり、少々幼くも見えた。
そうして目が薄い唇をとらえた時、綱吉の心臓は大きく高鳴った。
その淡く色づいた唇は、とてもおいしそうに見えて。
何も考えずに、自らの唇を重ねていた。
「!!」
自分のしたことに気がついて、慌てて顔を離すと。
時すでに遅し。目を覚ました黒曜石の瞳とぶつかった。
「ッ、…ヒバリさ、ん」
どうしよう、という言葉ばかりが頭の中を駆け巡り、綱吉はどうすることもできなくなってしまった。
すると、彼が口を開いた。
「寝込みを襲うのは、男として情けないと思うけど?」
「ぅ…」
からかうような声色に、反論したいとも思うけれど、実際その通りなので何も言えない。
寝顔が綺麗だったから、なんて言い訳も、雲雀相手に通用するはずもない。
固まっていると、雲雀が起きあがろうとしたので、綱吉は慌てて上体を起こした。
「……キスしたいんだったらさ、僕が起きてる時に、ちゃんとしなよ」
意外な言葉に、綱吉は一瞬ぽかんとしてしまう。
しかし、伏せ目がちに呟いた雲雀の目元が薄紅色に染まっていて。
――可愛い。
「ヒバリさん…」
染まった頬を両手で包んで、顔を近づける。
自分の鼓動がどんどん速くなっていくのに気がついて、雲雀に聞こえてしまわないかと危ぶんでしまう。
壊れ物に触れるように、やさしく、やさしく口付けた。(そんなことで壊れはしないと、わかってはいるけれど)
「ん…」
何度も何度も、重ねるだけのキスをする。
柔らかな雲雀の唇に、綱吉は酔いしれていた。
(何だか、唇からとけそうだ…)
名残惜しくも顔を離すと、ヒバリがにやりと笑った。
「これだけで満足かい?」
ああ、やられた、と綱吉は思った。思わず目の前の細い体を抱きしめる。
「…続きを、してもいいですか?」
雲雀は問い掛けには答えず、綱吉の背中に腕をまわすことで了承の意を示した。
そんな彼の行動に、綱吉の鼓動は一層高鳴って。
「…ああもう、反則ですよ」
俺はいつだって、あなたの虜。
END
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