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□セピアの約束
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※パラレル。小学生の黒子と高校生の黄瀬。
「涼太ー、ちょっといいかしら?」
母さんの声に呼ばれリビングまで行くと、明日何か予定ある?と聞かれた。
明日は休日だけど、珍しく部活も仕事も無いから、家でのんびりしようと考えていた。
それを伝えると、母さんは良かった、と笑って。
「明日ね、友達の子どもを預かる予定だったんだけど、母さん急用が入っちゃって。部活も仕事もないんだったら、代わりに見ててくれない?」
「…はあっ!?」
かくして、オレに一日限りの弟が出来ることになった。
*
「くろこてつやです。よろしくおねがいします」
第一印象は、なんだかできた子だなあ、だった。
年不相応なほど落ち着いた瞳と態度。
ぺこりと頭を下げる男の子に目線を合わせるようにしゃがんで、「テツヤくんか。オレは黄瀬涼太。よろしく」と笑ってみせた。
「…りょうたお兄ちゃん」
わ。
テツヤくんはにこりともしなかったけれど、小首を傾げる仕草がやけに可愛らしく見えた。
オレには兄弟がいないから、お兄ちゃんという響きがくすぐったくて、なんか嬉しい。
よろしく、の意味をこめて色素の薄い頭を撫でると、テツヤくんはくすぐったそうに目を細めた。
*
さて、現在時刻は正午。
とりあえず昼食を食べさせなきゃ、とエプロンをつけると、テツヤくんが不思議そうに見上げてきた。
「りょうたお兄ちゃん、おりょうりできるんですか?」
「うん。まあそんなに難しいのは作れないけどね。オムライスでいいっスか?」
テツヤくんはこくんと頷いて、すきです、と言った。
好物だと言われれば頑張らなきゃならない。
フライパンをふるうオレの背中を、テツヤくんはじっと見つめていた。
*
「はい、どうぞー」
「わあっ…」
オムライスの乗った皿を見て、テツヤくんは目を輝かせた。
なんのことはない、単にケチャップで名前を書いただけなんだけど、彼のお気に召したらしい。
オレは自然と笑みを浮かべながら、向かい側に腰をおろした。
「お兄ちゃん、すごいです」
「そんなことないっスよ」
そう言いつつも、内心は満更でもなく、表情がゆるむのは抑えられない。
オレが見つめる先で、テツヤくんはスプーンを握り、オムライスを口に運ぶ。
「どう?」
「おいしいです…」
「それは良かった」
少食だと聞いていたから心配していたけど、食べ進める様子を見る限りでは平らげてくれそうだ。
「りょうたお兄ちゃんは、いいおよめさんになれそうですね」
「……ぅえっ?」
テツヤくんは、あくまで純粋な瞳でこちらを見ていて、そこに揶揄いの色は無い。
たぶん、彼なりに褒めたつもりなんだろう。(どこでそんなセリフ覚えたんだろうなぁ)
「ん、ありがと」
微笑むと、まるい頬が淡く染まった。
「あ、ほら、ついてるよ」
頬にケチャップがついてるのを指摘すると、小さな手が拭おうとする。
でも彼が触っているのは反対側。じれったくなって、手を伸ばしてとってあげた。
「こっちっス」
指についたケチャップを舐めとると、こちらを見るテツヤくんと目が合った。
僅かに目を見開いているのは、オレの行動に驚いたからだろうか。
でも、それならどうして赤くなっているのか不思議で、首を傾げる。
「どうかした?」
「い、いえ、あの……ありがとうございます」
そう言って俯いてしまった。
ああ、なるほど。子ども扱いされたのが恥ずかしかったんだな。
なんだか微笑ましい気持ちになって、笑顔のままオムライスを口に運んだ。
*
どうやらオムライスのおかげで、テツヤくんの心は掴めたらしい。
昼食の後片付けも手伝うと言ってくれたり、オレの似顔絵を描いてくれたり、おやつの後には本を読み聞かせてほしいとせがまれたり。
なんだろう、これって餌付けしたことになるのかな。
…でも、悪い気はしない。
どこへ行くにもついてくる姿は、まるで鳥の雛みたいでかわいらしいし。
弟がいたらこんな感じなのかな?なんて考えていると。
「りょうたお兄ちゃん、」
くい、と裾を引かれて振り返る。
「おおきくなったら、ボクのおよめさんになってください」
「えっ、」
お嫁さん、かあ。
お昼の時にも言ってたけど、この子は同性同士で結婚は出来ないって、まだ知らないんだろうか。
なんだか複雑な気分だけど、きっとそれだけ懐かれたってことだよね。
テツヤくんのやわらかい髪を撫でて、にっこり笑ってみせた。
「キミが、かっこいい男になったら考えてあげるよ」
まあ、幼い頃の口約束なんて、成長と共に忘れてしまうものだけどさ。
「ほんとうですか?」
「本当だよ」
「やくそく、ですよ」
「うん。約束っス」
細い小指が差し出されたので、俺も同じようにして、指同士を絡める。
ゆびきりげんまん、と舌足らずに歌うのを、微笑ましく見ていた。
一日限りの小さな弟との、穏やかな思い出。
まさか彼が、約束を忘れることなく大きくなるとも知らず。
この子は大物になるかもなあなんて、オレは暢気に考えていたのだった。
***
黒子っちはおませさん^^
気が向いたら続きを書きたいな。
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