文章Θ

□セピアの約束
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※パラレル。小学生の黒子と高校生の黄瀬。





「涼太ー、ちょっといいかしら?」

母さんの声に呼ばれリビングまで行くと、明日何か予定ある?と聞かれた。
明日は休日だけど、珍しく部活も仕事も無いから、家でのんびりしようと考えていた。
それを伝えると、母さんは良かった、と笑って。

「明日ね、友達の子どもを預かる予定だったんだけど、母さん急用が入っちゃって。部活も仕事もないんだったら、代わりに見ててくれない?」

「…はあっ!?」

かくして、オレに一日限りの弟が出来ることになった。





「くろこてつやです。よろしくおねがいします」

第一印象は、なんだかできた子だなあ、だった。
年不相応なほど落ち着いた瞳と態度。
ぺこりと頭を下げる男の子に目線を合わせるようにしゃがんで、「テツヤくんか。オレは黄瀬涼太。よろしく」と笑ってみせた。

「…りょうたお兄ちゃん」

わ。
テツヤくんはにこりともしなかったけれど、小首を傾げる仕草がやけに可愛らしく見えた。
オレには兄弟がいないから、お兄ちゃんという響きがくすぐったくて、なんか嬉しい。

よろしく、の意味をこめて色素の薄い頭を撫でると、テツヤくんはくすぐったそうに目を細めた。





さて、現在時刻は正午。
とりあえず昼食を食べさせなきゃ、とエプロンをつけると、テツヤくんが不思議そうに見上げてきた。

「りょうたお兄ちゃん、おりょうりできるんですか?」

「うん。まあそんなに難しいのは作れないけどね。オムライスでいいっスか?」

テツヤくんはこくんと頷いて、すきです、と言った。
好物だと言われれば頑張らなきゃならない。
フライパンをふるうオレの背中を、テツヤくんはじっと見つめていた。





「はい、どうぞー」

「わあっ…」

オムライスの乗った皿を見て、テツヤくんは目を輝かせた。
なんのことはない、単にケチャップで名前を書いただけなんだけど、彼のお気に召したらしい。
オレは自然と笑みを浮かべながら、向かい側に腰をおろした。

「お兄ちゃん、すごいです」

「そんなことないっスよ」

そう言いつつも、内心は満更でもなく、表情がゆるむのは抑えられない。

オレが見つめる先で、テツヤくんはスプーンを握り、オムライスを口に運ぶ。

「どう?」

「おいしいです…」

「それは良かった」

少食だと聞いていたから心配していたけど、食べ進める様子を見る限りでは平らげてくれそうだ。

「りょうたお兄ちゃんは、いいおよめさんになれそうですね」

「……ぅえっ?」

テツヤくんは、あくまで純粋な瞳でこちらを見ていて、そこに揶揄いの色は無い。
たぶん、彼なりに褒めたつもりなんだろう。(どこでそんなセリフ覚えたんだろうなぁ)

「ん、ありがと」

微笑むと、まるい頬が淡く染まった。

「あ、ほら、ついてるよ」

頬にケチャップがついてるのを指摘すると、小さな手が拭おうとする。
でも彼が触っているのは反対側。じれったくなって、手を伸ばしてとってあげた。

「こっちっス」

指についたケチャップを舐めとると、こちらを見るテツヤくんと目が合った。
僅かに目を見開いているのは、オレの行動に驚いたからだろうか。
でも、それならどうして赤くなっているのか不思議で、首を傾げる。

「どうかした?」

「い、いえ、あの……ありがとうございます」

そう言って俯いてしまった。
ああ、なるほど。子ども扱いされたのが恥ずかしかったんだな。

なんだか微笑ましい気持ちになって、笑顔のままオムライスを口に運んだ。





どうやらオムライスのおかげで、テツヤくんの心は掴めたらしい。
昼食の後片付けも手伝うと言ってくれたり、オレの似顔絵を描いてくれたり、おやつの後には本を読み聞かせてほしいとせがまれたり。
なんだろう、これって餌付けしたことになるのかな。

…でも、悪い気はしない。
どこへ行くにもついてくる姿は、まるで鳥の雛みたいでかわいらしいし。

弟がいたらこんな感じなのかな?なんて考えていると。

「りょうたお兄ちゃん、」

くい、と裾を引かれて振り返る。

「おおきくなったら、ボクのおよめさんになってください」

「えっ、」

お嫁さん、かあ。
お昼の時にも言ってたけど、この子は同性同士で結婚は出来ないって、まだ知らないんだろうか。
なんだか複雑な気分だけど、きっとそれだけ懐かれたってことだよね。

テツヤくんのやわらかい髪を撫でて、にっこり笑ってみせた。

「キミが、かっこいい男になったら考えてあげるよ」

まあ、幼い頃の口約束なんて、成長と共に忘れてしまうものだけどさ。

「ほんとうですか?」

「本当だよ」

「やくそく、ですよ」

「うん。約束っス」

細い小指が差し出されたので、俺も同じようにして、指同士を絡める。
ゆびきりげんまん、と舌足らずに歌うのを、微笑ましく見ていた。



一日限りの小さな弟との、穏やかな思い出。
まさか彼が、約束を忘れることなく大きくなるとも知らず。
この子は大物になるかもなあなんて、オレは暢気に考えていたのだった。





***


黒子っちはおませさん^^

気が向いたら続きを書きたいな。


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