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□ある休日の一コマ
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*拍手ログ
珍しくボクと黄瀬君のオフが重なったので、電車で遠出をすることにした。遠出と言っても、ちょっと離れた街に足を伸ばす程度のものなのだけれど。
それでもこうして2人で出かけるのは久しぶりなので、密かにテンションが上がるのは抑えられない。
「黒子っち、次の電車もうすぐ来るみたいだよ!」
「そうですか、いいタイミングですね」
それはボクの隣を歩く黄瀬君も同じようで、ただこちらは上がり具合が表面に顕著に表れている。
「あの映画、すっごく観たかったんスよー。黒子っちと観に行けるなんて嬉しいっス!」
そんなことを満面の笑みで言われたら、こちらが照れてしまう。
だけどそんなことはおくびにも出さずに「映画のあとはおやつにしましょうか」と言えば、彼は本当に嬉しそうに笑った。
些細なことが、こんなにも喜ばしいなんて。黄瀬君と付き合うまで知らなかったことだ。
彼も同じようなことを感じていればいいと思う。
やがて、電車の到着を告げるアナウンスが流れる。
ほどなくしてやってきた電車に、二人で乗り込んだ。
軽食屋のテーブルについて、注文を取りに来た店員にオーダーをして、そこでようやく人心地ついた気がした。
身体にはまだ感動の余韻が残っている。
思えばきちんと映画館で観るのは久しぶりだった気がする。
そんなことを考えていると、黄瀬君がにこりと笑いかけてきた。
「やっぱり良かったっスね!オレすっごい感動したっスよー」
どうやら同じことを考えていたらしい。少し笑ってしまう。
「そうですね。特に主人公とヒロインのあのやりとりには胸を打たれました」
「そうそう、ラストも良かったけど、あのシーンにはぐっときちゃったっス」
「黄瀬君、泣いてましたもんね」
「えっ!」
指摘すると、黄瀬君がぱっと赤面した。
「な、なんで知ってるんスかぁ!?」
「なんでって…見たからですけど」
そう、ちょうど話題のシーンが上映されていたとき。
隣から鼻を啜るような音が聞こえたので、うっかりそちらに顔を向けてしまったのだ。
「もぉー…絶対黒子っちにバレないようにって頑張ってたのに…」
片手で顔を隠した黄瀬君の耳は綺麗に真っ赤だ。
余程ボクに知られたくなかったんだろう。彼は、ボクに対して格好つけたがる傾向にある。
…まあ、気持ちはわからないでもないのだが……今更ではないだろうか。
「ボクは、ちょっと妬きました。黄瀬君を泣かせていいのは、ボクだけなのに」
そう言えば、丸くした目でボクを見て。
「……も、恥ずかしいっス…」
それから注文した料理が運ばれて来るまで、黄瀬君は顔を見せてはくれなかった。
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