文章Θ

□其処に在る風景
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※薄ら寒い雰囲気を目指しました。
※ある意味不思議系。ある意味電波。ある意味ホラー。
※残酷描写ととれる表現があります。










朝が来た。

見慣れた自分の部屋で伸びをする。窓の外は明るく、清々しい。

制服に着替えて、朝食を食べて、身だしなみを整える。
その間に考えるのは、今日のこと。

古文の授業は好きじゃない。昼休みには何を食べようかな。体育は確か器械体操だったはず。部活が終わったら寄り道して帰ろう。…黒子っちに会えたり、しないかな。

「いってきまーす」

ぱたん。と音をたてて、扉が閉まる。








朝が来た。

強い雨が窓を叩いている。
その音に何だか不安を感じて、傍らの温もりに身を寄せる。

「どうかしましたか」

こちらを覗きこむ黒子っち。
ううん、と首を振って、だけど更に近付こうと細い体に抱きつく。
彼は何を感じ取ったのか、ふ、と微笑うと。

「そんなに音が気になるなら、気にならないようにしてあげましょうか?」

するりと頬を撫でる手。甘い誘惑。
わざとらしく得意げな表情をするのが可笑しくて。

「ふふっ」

だから、委ねるように、瞳を閉ざす。








朝が来た。

見慣れた檻の中で欠伸をする。
起きたのに気付いて、黒い猫が擦り寄ってきた。(猫と言うには大きくて、豹かチータのような風貌なのだが、“それ”は確かに猫なのだ。)
聡明な光を宿した瞳でこちらを見つめている彼の喉を撫でてやり。

「黒子っち。おはよう」

ぐる、と一声鳴いて答えた黒子っちは、俺の頬をべろりと舐めあげた。彼の愛情表現。
いつもの通り、くすぐったいよ、と言いながら、俺はそれを受け入れる。

足を投げ出した格好で座る俺の腿に前足を乗せ、次いで顎を乗せる。完全にリラックスした姿勢。
黒子っちは、身体は大きいくせに、子どもみたいな戯れが好きなのだ。

それが可愛くていとしいなと、いつも思う。








朝が来た。

休日なのに部活も仕事も無いのは珍しい。
だからこそ、持て余してしまう。

…いや、本当は暇の潰し方なんて知っている。
適当に友達を誘って遊びに行けばいい。それで解決だ。
わかっているのに出来ないのは、会いたくて会いたくて仕方のない、けれど誘っても応えてくれない人がいるからだ。

「あーあ…」

高校にあがってから、いっそう態度が冷たくなったように感じる。
それがコミュニケーション、と言われればそれまでのような気もするが、少なくとも他のキセキへの態度は変わっていない、から。

――嫌われてんの、かな。

ごろんとベッドにうつ伏せになって、目を閉じる。








朝が来た。

とても苦しい夢を見た気がして、胸元を握りしめる。
と、その手に温かい手が重なった。

「あ、」

「…大丈夫です」

はっとして彼の顔を見ると、こちらを見つめる穏やかで、強い光の灯った瞳。

「キミを傷つけるもの、脅かすもの、すべて。ボクが、――…」

まるで抱いていた不安を見透かしたみたいに。
力強い言葉に包まれ、身体の力を抜く。

宿っていたのが光だけではないと、わかっていたけれど。








道を歩いていた。
ふと顔をあげた先に黒子っちを見つけて、胸が踊る。
声をかけようとして、けれど気がついた。
――ひとりじゃない。

気にせず挨拶すれば良かったのかもしれない。
でも息が詰まった。嫌な予感がした。

逆光で顔が見えない。あれは誰?
俺のしってるひと?しらないひと?
…嫌だ、黒子っちに触らないで!

その手が、黒子っちの頬に伸びる。そして、唇と、唇、が。ああ。あ。

一気に暗くなる視界。
幸せそうにはにかむ黒子っち。小さく動いた唇。
顔の見えない誰かが、こっちを見て笑った気がした。

――ドウシテコンナコトニナッテイルンダ?

気がついたら家にいた。
どうやって帰ってきたのか、覚えていない。








『キミを傷つけるもの、』
『脅かすもの、』
『すべて。』
『ボクが、』



『消 し て あ げ る か ら』








朝が来た。

真っ暗で何も視えない。誰かが目隠ししてるみたいに、何も。
遠くで何かが聞こえる。





悲鳴。罵声。奇声。怒声。哄笑。狂笑。矯声。糾弾。絶叫。嘆息。何かが割れる音。何かが倒れる音。何かが潰れる音。何かが壊れる音。何かが崩れる音。何かが砕ける音。何かが燃える音。何かが爆ぜる音。何かが溶ける音。何かが沈む音。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。悲鳴。嫌だ。いや。助けて。助けて。助けて。助けて。たすけて。たすけて。たすけて。たすけて。たすけてたすけてたすけてたすけてたすけて。ゆるして。

――何かが終わる音。








朝が来た。

黒猫が気遣わしげに目尻を舐めていた。
何か恐いものを夢に見た気がするけれど、詳細が思い出せない。泣くほど怖かったのだろうか。
猫は、くう、と喉を震わせて、頭を擦りつけてくる。
…慰めてくれている。胸が温かくなって、しなやかな体躯を抱きしめた。

「ありがとう、黒子っち」

視界の端で、黒い尾が揺れる。








朝が来た。





朝が来た。



朝が来た。


朝が来た。

朝が、来た。








見慣れた部屋の真ん中で、首を傾げる。
“ここ”は“どこ”だろう。

慣れ親しんでいるはずのこの場所は、果たして現実の風景なのか?

(おれ、は……)

ずっと夢を見ているのか?
それにしては感覚が、嫌になるほどリアルだ。

ここはどこで、今はいつで、…誰が『黒子っち』なんだろう。

――ここは、現実?
――それとも、夢?

猫は満足げに眼を細める。










***
背筋が寒くなるようなループ系ホラーな物語が好きです。だんだん壊れていく感じの。
自分で書いてみようと思い立ったはいいけれど、これは…どうなんだ?
うう、難しいです…!

一応『答え』はありますが、あえて説明はしません。ご想像におまかせします^^



BGM:『そこに在る風景』『タナトスの幻想』/Sound Horizon




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