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□ベルを鳴らそうか
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そろそろ寒いのが当たり前になってきた、そんな日のことだ。
暖炉の火がぱちぱちと音をたてている。ついさっきメイドが薪を補充してくれたので、部屋は充分暖かい。
そんな働き者の彼女には、何か温まる飲み物をふたつ、とお願いした。仕事を増やしてしまったわけだが、彼女は笑顔で了承してくれた。ありがたいことだ。
「ロイさまは、やっぱり……聖夜はリリーナさまと過ごされるんですよ、ね」
思いがけない台詞を聞いた気がして、へ、と間抜けな声が出た。
そしてぼくのその声を聞いて、発言者である乳兄弟ははっとしたように口を押さえた。
「…いま、何て言ったの…?」
「い、いえ、失言です。忘れてください」
忘れられるもんか。ぼくはこっそり思う。
かわいいウォルトがぽつりと言った言葉。それは、ぼくが聖夜をどう過ごすか、気にしている証拠なのだ。
まったく、かわいいったらない。
だけどさ、リリーナはそういうんじゃないって、何度言ったらわかるんだろう。
彼女は…謂わば戦友みたいなものだ。同じような悩みを共有する同志、と言うか。
だからウォルトがリリーナに遠慮する理由なんてひとつもないのだ。
でも。そうだよな、だってぼくら、まだ恋人じゃない。
一番近くにいるけど、まだ、それだけ。言葉で想いを交わしたわけじゃ、ないんだ。
気持ちだけは通じあってる気がするんだけどね。
コンコン、と控えめなノックの音が響く。
入室の許可をすれば、顔を出したのはさっきのメイド。そうだ、飲み物を頼んでいたんだった。
「どうぞ。ロイさま、ウォルトさま」
ぼくたちの前に置かれたカップの中身はココアだった。なるほど、これは温まる。
礼を言えばメイドは嬉しそうに笑って退室した。
「ねえ、ウォルト」
ココアの甘い匂いが、部屋の空気を柔らかくした気がする。
呼びかけられて、ウォルトが背筋を伸ばしたけど、さっきの緊張には及ばない。
「おまえさえ良ければ、ぼくはおまえと一緒に過ごしたいんだけど。どう?」
今度はウォルトが間抜けな声をあげる番だった。一瞬で染まる頬と潤んだ瞳。それが本心なんだろう。
「そ、それは……ですが…」
またリリーナか。
ウォルトがそれにこだわる理由は、たぶん立場が大きい。あとマーカスに何か言われたんだろう。
そんなの、気にしなくていいのになあ。
「ぼくは、おまえじゃなきゃ嫌だよ」
目を見開いたウォルトの翠に、暖炉の灯が映りこむ。
それがゆらゆらと揺れて、そして目蓋の裏に消えてしまう。
「ウォルト、ぼくと聖夜を過ごしてくれるかい?」
「………よろこんで」
小さな声の了承に、驚くほど胸が震える。
――聖夜は良いチャンスかもしれない。この機会に、ぼくの腕の中に抱き込んでしまおうか。
赤く色付いた耳を見つめながら、ぼくはココアに口をつけるのだった。
END
両思いなんだけどどうも今の関係を越えられない、そんなロイウォル。
あの世界にクリスマスってあるのかなあ。あとココアも。笑
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