文章Θ

□プレ・ファースト
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※捏造「はじめまして」
※限りなく黒+黄。





きっと覚えていないだろう。
彼の記憶の中では、ボクと出会ったのはバスケ部が初めてということになっていると思う。

だけどボクは覚えている。
忘れもしない、あれは何でもない、何も特別じゃなかったはずの夕暮れ。





『黄瀬涼太』という男子生徒の存在は知っていた。
モデルをやっているから、というのも勿論あったけれど、彼には人の視線を惹き付ける、一種の才能があった。
キラキラした、ボクとは正反対の人種だな、と思っていた。

そこに感情があったわけじゃない。憧れも羨望も嫉妬も、そこには含まれなかった。
ただ、関わることは無いだろうとだけ感じていた。住む世界が違うのだと。

だけどその日、ボクと彼の時間は確かに重なったのだ。



夕日の差し込む図書室。図書委員だったボクは一人、カウンターに座っていた。
テスト期間でもない限り、ここが混むということはない。
閉館直前のこの時間、ちらほらいた人達も皆退室していた。

一通り見回って体育館に行こうと、立ち上がる。
今日は部活に出られないと言ってあるけれど、自主練くらいはしたい。

踏み出したところで、ふと、足を止める。
誰もいないと思っていたけれど、奥まった場所に一人の男子生徒がいるのを見つけた。
閉館を知らせるために、歩み寄る。男子生徒は、こちらには全く気づいていない。
それはまあ、ボクの影の薄さからしたら当然のことだけれど。

(あれは…)

蜂蜜色の髪。整った顔立ち。
黄瀬涼太君、だった。

一番端、窓際の席で夕焼けを眺めている彼は、微動だにしない。
笑っている印象が強い彼のその表情は、初めて見るものだった。退屈そうな、世界のすべてがつまらないと言っているようなカオ。

思えば黄瀬君は、一人になりたかったのかもしれない。
そうでなければ、閉館間際の図書室に、一人きりでなんていないだろう。

「そろそろ閉館ですよ」

「――うわぁっ!?」

見開かれた眼に、ボクが映る。その顔にはありありと『いつの間に!?』と書かれており、内心苦笑する。

「驚かせてすみません。でも、もうすぐ閉まってしまうので」

「あ、いや、こっちこそスイマセン。すぐ出ます」

傍らに置いてあった鞄を取って、彼は立ち上がった。すらりとした長身。
綺麗だな、と純粋に思う。女性を中心として人気があるのも納得できる。

出口に向かって歩いていた黄瀬君が、ふと立ち止まった。

「あの、」

「はい?」

「キミ、同じ学年っスよね?」

足下を見れば、同じ色の上履き。
そんなものがなくとも、ボクは同い年だと知っていたけれど。

「オレのこと、知ってるっスか?」

振り向いたその顔は、何かを思い詰めているかのように硬い。

「…黄瀬涼太君、ですよね」

あは、オレって有名人だなぁ。と、どこか皮肉げに笑う黄瀬君。
それが不思議で、首を傾げる。

「ああ、スイマセン。ちょっと確認したかっただけっス」

「…確認?」

「うん」

それ以上は話したくなさそうだったので、ボクは追及しなかった。代わりに一言。

「キミが夢中になれるもの、見つかるといいですね」

黄瀬君の眼が見開かれる。
自分でも、何故こんな言葉が出てきたのかわからない。
だけど、これが彼の求める言葉だと確信があった。

「…ん。ありがと」

その証拠に、見たことのない綺麗な顔で、黄瀬君は微笑ってみせた。
夕陽に映えるその姿は、まるで一枚の絵画のようで。





――キミはボクのことなど覚えてはいないでしょう。
あの日のように驚く顔が目に浮かびます。
ああ、“二度めまして”、黄瀬君。

「…初めまして。黒子テツヤです」



END






出会い前の出会い。
こんなことがあってもいいんじゃないかと。



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