文章Θ

□りぼん結びのチェチタ
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格好良いか、可愛いか。
一般的に見て、黒子っちはどちらかと言えば可愛い、に分類される方だと思う。
小柄だし(本当はそこまで小さいわけでもなく、平均的な身長なんだけど)、童顔だし、と言うと本人の機嫌を損ねるので、口には出さないが。

その黒子っちが、時折妙に精悍な表情をすることが、ある。





りぼん結びのチェチタ





精悍、というとちょっと違うかもしれない。顔立ちは変わらないわけだし。男らしくなる、…も微妙に違うか。
まあでも、要はそんな感じ。

『そう』なるのは、試合中だとか、バスケに関わることを話している時だとか、つまりバスケに関わっている時が大半。そんな時は(道を違えた今でも)、ついうっかり見惚れてしまう。
次の瞬間にはもう元に戻ってたりするのだけど、だからこそドキリとするのかもしれない。

そう。ドキリと、する。
それ自体は、ああオレってやっぱ黒子っちが好きなんだなぁと思うだけだから、別にいいのだけど。
(以前この話をセンパイにして、『オマエは“黒子”なら何でもいいんだろ』と言われたのは記憶に新しい。)

でも、たまに、困ってしまうことがある。

大抵がバスケ関連、と言ったが、他に顔つきが変わる機会と言えば、あとはオレと二人きりの時、もっと言えば恋人らしい雰囲気の時。
多分黒子っちは意識してないんだと思うけど、二人きりの時にあの顔で見つめられると、どうしようもなく頬が熱くなって、いつものオレじゃなくなってしまう。

…何が困るんだって? 困るだろう! 恥ずかしいじゃないか!


「……話はわかった。でもな、それオレに話しても意味ねえだろ」

「何言ってるんスか、火神っちにしか話せないっスよ!」

「いや…直接本人に言えば?」

「絶対ムリっス!」

火神っちは呆れたように息を吐いて、もう何個目かわからないバーガーに手を伸ばす。山盛りのバーガーは、今日はオレの奢りだ(だって話を聞いてもらうためにわざわざ呼び出したんだ、これくらいはしないとね)。

相談相手に火神っちを選んだのには、ちゃんと理由がある。
火神っちは今一番黒子っちの近くにいるし(それはちょっと悔しいと思わなくもないけど)、誰かに言いふらしたりとか、からかったりとかもしない。秘密のオハナシをするには最適の相手だと思ったわけで。
……間違ってない…よね?

「要はアレだろ? スイッチ入った黒子に迫られると乙女入っちまうから困る、ってんだろ?」

「えっ!? あ、いや……そうなんス、かね?」

「どう聞いてもそうとしか聞こえねーぞ」

改めて自分の発言を思い返してみると、確かにそうとれなくもない。ない、が、それを認めるのには結構勇気がいる。

「で、でも、別にそれで何か期待してるとかじゃないんスよ…?」

「ふーん? じゃあどっちかっつーと、その表情[カオ]見ると強気に攻めらんなくなるから困る、ってトコか?」

その言葉は的確に的を得ていて、オレは二の句が次げなかった。
だって自覚してしまったんだ、不可解だったモヤモヤの正体を。

「あー……そっか、そうだったんスね。…オレは、自分のペースが保てなくなることに困ってたんだ…」

「…困るだけ、か?」

「…そうっス、ね。不思議と嫌ではないっス。変な感じっスけど。
 火神っち、ありがと!」

「おー。ま、よかったじゃねーか、スッキリしたみたいで」

火神っちがにやりと笑う。その顔は格好良いと思うけど、黒子っちのあの顔みたくドキドキはしない。
黒子っちだけだ、オレの余裕を削ぎ落としてしまうのは。

「…そうだったんですね」

「「………ッ!?」」

突然入ってきた声に、オレと火神っちは揃って身体を跳ね上がらせた。まったく心臓に悪い。

「く、黒子っち……いつからそこに?」

「最初から、と言うか、ボクが先に座ってたんですよ」

そこに、と指差したのは、オレの真後ろの席。
なるほど、これではオレが壁になって火神っちから黒子っちが見えない。普段ならオレが気付いたんだろうけど、今日は火神っちに話すことで頭がいっぱいだったから、黒子っちに気付けなかったんだ。

それにしたって、知らなかったとはいえどうして、よりによって真後ろに座ってしまったのだろう。最初からいた、ということは、全部聞かれてしまったということだ。
は、恥ずかしい…ッ!
頬が急速に熱を持っていくのを感じて居たたまれなくなる。

「じゃあオレ、帰るわ。黄瀬、ごちそーさん。じゃあな」

「えっ、ちょ…!」

「さようなら、火神君」

そこまで付き合う気はない、とばかりに、火神っちはさっさと帰ってしまった。残されたのは当たり前だけどオレと、黒子っち。
恥ずかしいやら気まずいやらで、オレが何も話せずにいると、見知った安心する感触がそっと、オレの頬を撫でた。黒子っちの手のひらだ。

「黒子、っち…」

「黄瀬君。うちに…来ませんか?」

部屋でゆっくり話したいんです。
そう言った黒子っちは、まさしくオレをドキリとさせる顔をしていた。







(そう言う黄瀬君だって、普段は格好良いのに時々ふと無防備な顔をして………ボクがどれだけドキドキしてるか、わかってないんでしょうね)

黒子が似たようなことを考えていることは、黄瀬だけが知らないのだった。



END



タイトル提供元:いなずま


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