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□蜂蜜がやってきた
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誠凛高校、休日の部活動中――その昼休憩。誰かが円になって食べようと言いだし、先輩も後輩もなく丸くなって各々の昼食を取り出した。…そんな中で。
「おい……な・ん・で!てめーがいるんだッ」
1年生、主に黒子テツヤの周囲に、異様な空気が漂っている。その原因というのが、
「えー、いいじゃないっスかぁ。オレ、今日ヒマなんスよぅ」
海常高校1年、黄瀬涼太。(と、食って掛かる火神) 他校生の彼が、何故誠凛にいるのか。答えはもちろん、ただ黒子に会いに来ただけ、なわけで(その証拠に、彼はラフな私服姿である)。
当の黒子は、今日も今日とて少なめな食事をもさもさ頬張っていた。
「ああ!?ヒマだからって来んじゃねえ!練習の邪魔だ!」
「今は練習してないじゃないっスか。それに、練習中はおとなしくしてるっスよ」
「そういう問題じゃ…ッ、〜〜……わかった、万歩譲ってここにいるのは許してやる」
百じゃなくて万って言うところが火神らしいよなぁ、などと先輩達は勝手に思った。黒子に至っては火神君無駄に偉そうですね…、なんて考えていた。
火神は過剰に反応しているが、他の人間は実に平和に過ごしていたのである。
「だがな、とりあえず黒子から離れろ!暑苦しい!」
「…火神っち、やきもちっスか?」
「なんでだ!!」
そう、黄瀬は黒子を後ろから抱きしめていた。ふたりが恋人同士だということは誠凛バスケ部では周知の事実(と言うか、暗黙の了解)なので、皆特に騒ぎ立てはしなかったが。
「いいじゃないっスか、スキンシップっスよ、スキンシップ。それに、黒子っちは抱き心地いいんスよ?」
「抱き心地…?」
これまで我関せずの態度を貫いていた黒子が、ぴくりと反応した。それには気付かず、さながら子どもがお気に入りのぬいぐるみを抱きしめているかのようにして、黄瀬は更に続ける。
「こう、腕にすっぽり収まるカンジがすごくいいんス!」
「腕に…すっぽり……」
火神が黒子の異変に気付き、顔を引きつらせる。自分の体格を気にしている黒子にとって、その発言は禁句だった。
「…そう、ですか」
「黒子っち?」
ようやく黄瀬も異変に気付くが、もう遅い。
黒子は腕の中で向きを変え、正面から黄瀬を見つめた。
「黄瀬君も『すごくいい』ですよ、」
ぐっと肩を押し、そのまま押し倒す。固まる身体に覆い被さって緩く手を拘束し、耳元に唇を寄せて。
「『抱き心地』。」
一瞬ぽかんとした黄瀬だが、『抱き』違いの話をしていることに気付くと、顔を真っ赤に染め上げた。
「な、な、なに言ってるっスか!!」
「なにって、黄瀬君が言い出したんですよ」
「それはッ、そういう意味じゃ…!」
「そういう意味って?」
「〜〜〜〜!!」
黄瀬が反論出来ずに、口をはくはくさせる。羞恥のためか、ちょっと涙目だ。
それを見た黒子は、自然な動きで目元に口付け、さらに唇にもキスを落とそうと、
「はーいはいはいそーこーまーでー。教育上よろしくないんで、そこから先はふたりっきりのときにしてくれるぅ?」
カントクこと、相田リコの登場だった。見れば、男達は皆赤面して固まっている。火神はぽかんとして固まっている。黄瀬も見られたショックで固まっている。
普通に動いているのは、黒子とリコだけだ。
「キスで終わらせるつもりだったんですけど…」
「それだって深いのもする気だったんでしょ?」
「はい。…でもそうですね、黄瀬君は感じやすいので、えろい顔しちゃったかもしれません」
「じゃあ駄目じゃない」
何故、二人は普通に際どい話が出来るのか、皆疑問には思ったものの、口には出せなかった。
「それじゃ皆、午後の練習始めるわよー!」
こんな空気で!?
部員の心の声が、見事にリンクした瞬間だった……。
END
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