文章Θ
□サイレント・コール
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※暗い話ではないのに、後半は雰囲気暗め…。
※黒子の母親捏造。
「黒子っち!遊びに来たっスよー」
扉を開けると、満面の笑みの黄瀬君がいた。
彼はこうして前触れもなくうちにやってくることが、時々ある。最初のうちは、先に連絡してくださいボクにだって都合ってものがあるんですいなかったらどうするんですか、と言い聞かせていた。その甲斐あって彼は約束を取り付けることを覚えたが、それでも確率はフィフティだ。
いつだったか、ボクがちょっと出かけている間に黄瀬君がうちに来ていて、母親と談笑していたときには流石に脱力した。聞けば、帰ろうとした黄瀬君を、すぐ帰ってくると思うから、あがって待っていればいいじゃない?と母親が引き止めたらしい。
容姿と人当たりの良い黄瀬君は、どうやら母親に気に入られたようだった。彼がうちに来るたびに母親は、黄瀬君って本当に綺麗ね、と少女のようにはしゃぐ。
そんなこんながあって、今ではもういきなり押し掛けてきても何も言わなくなった。それを、彼はどう受けとめているのだろうか。
「でねー、……黒子っち?」
「、何ですか?」
「いや、ぼんやりしてたみたいだから…もしかして眠いんスか?」
「いえ、大丈夫です」
ボクと彼との関係は、ひどく曖昧だ(ボクが望む関係と微妙なズレがあるのは確かだが)。友達。仲間。恋人。そのどれもが、当て嵌まるようで当て嵌まらない。
好きだと言われて、好きだと返した。でも、彼の好き、は透明すぎる。友情と思慕と憧憬がない交ぜになったような、そんな『好意』だ。
(別にボクだって、不純な好意ばかりを持ってるわけではありませんが)
きっと彼は自覚していないし、好きの種類、なんて考えてもみないのだろう。だからこそ、寄せられる好意がくすぐったくてもどかしい。
確かな、証、が、欲しい
「黒子っち、本当に大丈夫っスか?」
「…え、あ、」
――気が付けば、目前に迫った端正な顔。その瞳が、ボクを心配そうに覗き込んでいる。
…駄目だ、もう。
「具合でも悪いんじゃ…?」
恐らく熱を計ろうとしたのだろう、こちらに伸ばされた腕を掴み、床に引き倒した。
黄瀬君は、呆然とボクを見上げている。
「具合は、悪くないです」
馬乗りになっても抵抗しない彼の頬を撫で、徐に唇を重ねた。
「黄瀬君…」
呼ぶ名前には熱が籠もった。それに、黄瀬くんは何を感じたのだろう。
「…いいっス、よ」
ふわりと、受け入れるように笑みを浮かべて。
「黒子っちがしたいようにして、いいよ」
言葉と同時に、頬を大きな両手で包まれる。その優しい仕草に、ひどく動揺した。
「…意味、わかって言ってるんですか?」
「? だって黒子っち、オレに何かしたいんでしょう?」
何か。その具体的な内容は、主に黄瀬君をぐちゃぐちゃにすることだ。それでも良いのか。
「壊してしまう、かもしれませんよ」
「壊れないっスよ」
間髪入れずに、言葉が返ってきた。それに少なからず驚いて、目を瞠る。
「何だかんだ言って、黒子っちは優しいし。それに、」
オレは黒子っちが好きだから。黒子っちがオレを求めてくれてるなら、その行動で嫌なことなんてひとつもないよ。
「…黄瀬君。キミは、…」
その言葉に、救われて、巣食われた。嬉しいと思う反面、ボクなんかのためにそんなことを言わないでほしい、とも思う。だって、本当に、止まれなくなってしまう。
「目を、閉じてください」
素直に、夢みるように瞼を下ろす。嗚呼、彼にそうさせる根源が、
どうか、恋愛感情でありますように――。
end
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