文章Θ

□Vanilla
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作業が一段落したので、休憩をとろうと立ち上がった。一足先に休憩をとっているシュージンは、ソファーで漫画を読みながら、菓子類をつまんでいるようだった。

「シュージン、なに食ってんの?」

「あ、お疲れサイコー。ルックだよ。これ、サーティワンとのコラボでさぁ、なかなか美味いんだ」

「ふーん…」

シュージンは案外、甘いものが好きだ。僕はそれほど好きというわけでもないが、パッケージのカラフルさもあってか、トレイに整然と並んだ小粒のチョコレートは美味しそうに見えた。

「一個くれる?」

「ん、いいぜ。どれがいい?」

「んー…じゃあ、バニラ」

(だって、バニラってシュージンっぽい。)
きっと本人に言ったら笑われるだろうから、言わないけれど。

シュージンの細長い指が、長方形の小粒を摘み上げる。
食べさせてくれないかな、とか思っていた、ら。

あろうことかシュージンは、そのチョコレートを口にくわえて。
そのまま、僕に口付けてきた。

シュージンはチョコを僕の唇の間に差し込んで、お互いの唇をくっつけたまま、歯と舌で器用に半分に割った。ふわりとバニラが香る。

「ん……ッ」

息苦しかったのか、シュージンの息が鼻から抜ける。それが妙に色めいて聞こえて、僕は内心どきりとした。
そしてちろりと僕の下唇を一舐めして、甘い唇は離れていった。


心拍数の上がった胸を持て余しながら、半分になったチョコレートを咀嚼する。僕にはちょっと甘いけれど、悪くはない。
口の中でチョコが溶けきるのを待ってシュージンのほうを向くと、じっとこちらを見ていたらしい瞳とかちあった。

「…怒った?」

「なんで。そりゃあびっくりはしたけど、怒る理由にはならないよ」

笑みを浮かべて言ってやれば、シュージンがへにゃりと笑う。

「……バニラがあとひとつしか無くてさ」

「…うん」

「これ結構お気に入りだから、最後のひとつ、俺も食べたいなって思って」

「で?」

「だから、半分こ、した」

それが、大胆な行動の全容らしい。今ので僕がどれだけ煽られたか、まったくわかってないのがすごいと思う。

「シュージン」

「なに、サイコー」

「ちょっとつきあって」

「え?、」

とりあえず、キスからやり直し。


ソファーに組み敷いたシュージンを見下ろして、甘そうだなんて考えた。



END




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