文章Θ

□水底
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※注意
この話は、『ツバサ』16巻のChapitre.120〜124をベースに作った、『心を無くした小狼の内側の、深いところに心が残っていたら?』というif設定、つまりはパラレル話(小狼の独白)です。
管理人の勝手な妄想が許せる方のみ、先へ進んでください。


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ごめんなさい。
ごめんなさい。
愛しています。

おれの愛しいひと。




水底





身体が言うことを聞かない。
おれの身体のはずなのに、違う誰かのもののように勝手に動く。
やめて、やめてくれ。
おれは仲間を、大切なひと達を傷つけたくはないのに。

「‥‥その目が魔力の源か」

ああ、ファイさん。

「羽根を取り戻す為にこれも必要か」

逃げて、ください。




あの蒼い瞳が好きだった。
きらきらと、彼の感情を映して輝くあの瞳が。
あの宝石が、欲しかった。
だけど、それはファイさんの顔にあってこそ価値があるもので。
おれはファイさん自身が欲しかったのであって。

「魔力の源は両の蒼い目」
「両方取り出せば用はない」

違う。

「羽根を取り戻す為に必要なものは手に入れる」
「邪魔なものは消す」

違う!
…こんなのは、望んでない。

「聞こえねえのか小僧!!」

ああ、聞こえています、黒鋼さん。


「あのさくらを一番大事だと思ったのは『おれの心』じゃない!」
「おまえだろう!!」

聞こえて、いるのに。




嗚呼、どうして…!
なんでおれの思い通りに動かせないんだ!
これ以上、愛しいひとや仲間を傷つけたくないのに…!!

「小狼君を殺さないで!!!」

さくら…。
今のおれは、本当に酷いことをしているのに。
それでも、殺さないでと言ってくれるのか…。

「羽根は取り戻す」
「必ず」





…ああ、さくらが泣いてる。
ごめん。
さくらの涙を見ていると、おれも辛くなるよ。
でも、駄目なんだ。
この身体はおれの意志では動かない。
もう今の『小狼』は『おれ』じゃないんだ。
ごめん、さくら。
ごめん。

「‥‥小狼‥君‥」
「行か‥ないで‥‥」





さくら、黒鋼さん、モコナ。
それから他の皆も。
ごめんなさい。
『おれ』がどうにかできることじゃなかったにしても。
たくさん傷つけて、ごめんなさい。

…ファイさん。
おれの愛しいひと。
ごめんなさい、ごめんなさい。
どれだけ謝ったって足りない。
ごめんなさい。
…愛しています。
それだけは、伝えたかった…。




『小狼』という器の内側で、少年は静かに涙を流した――。








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