文章Θ
□charm
1ﾍﾟｰｼﾞ/1ﾍﾟｰｼﾞ
――だって、好きなんだ。
charm
「僕、アスランに呪いをかけたい」
突然のキラの言葉に、しかしアスランはさほど驚いた様子もなく、ことりと小首を傾げてみせた。
キラが突拍子もないことを言いだすのは、特に珍しいことでもない。
「へえ？ どんな呪いを？」
「知りたい？」
無邪気に笑うキラに、アスランも目元を緩める。
「知りたい」
「ふふ、じゃあ教えてあげるよ」
すい、と顔を近づけ、唇が触れ合う寸前で止まる。
すぐにでも口付けが出来そうな距離に、アスランの肩がぴくりと跳ねた。
「アスランが、僕にたくさんキスしたくなっちゃう、呪い」
距離を詰め、キラは自分の唇を、目の前の薄桃色に重ねた。
触れただけで解放したが、彼は目元を淡く染めていた。
「えへ、呪いかけちゃった」
「……今のが、呪い、だったのか？」
「うん！」
満面の笑みを浮かべるキラに、アスランは呆れたような顔をしてみせたが、その頬は熱を持ったままだったために、ほとんど意味を成さなかった。
「呪い、効いた？」
「…、………キラ」
声の調子からして、機嫌を損ねたわけではないようである、が。
俯いたアスランに首を傾げるも、ん？と返事を返す。
「俺にそれは効かないよ」
「えっ？」
顔をあげたアスランは、いたずらっぽく笑っていて。
その煌めくエメラルドに、キラは目を奪われた。
（アスランの瞳って、やっぱり綺麗）
「どうして？どうして効かないの？」
「呪いはキラに撥ね返ったから」
「え！」
思わぬ台詞に、キラは目を見開く。
「…もしかして、『呪い返し』？」
「そういうこと」
考えたな、心の中で笑う。
正しい呪い返し、とは食い違いがあるかもしれないが、しかしキラの『呪い』に対しては有効な手だ。
でも、と思う。
「…それだったら、僕にだって効かないよ」
「何で？」
「だって、」
腕を伸ばしてアスランを抱き寄せ、内緒話をするように、そっと耳元で囁く。
「僕はいつだって、君にたくさんキスしたいと思ってるんだから」
甘く響いた声に、アスランが身を震わせた。
頬を染め、目を伏せるその仕草に、キラは自分の中に火が灯るのを感じた。
「ね、アスラン、キスしていい？」
「キラ…っ」
返事を待たず、アスランの頬に手を滑らす。
潤んだ瞳に答えを見つけて、キラはそっと唇を寄せた。
――たまにはアスランからのキスが欲しくて。
だから僕は『呪い』を思いついたんだけど。
――だけどアスランは。
自分からするより、僕からしてほしかったんだ。
――かわいいな。
「アスラン、大好きっ」
小さく聞こえた『俺も』、の声に、キラは幸せそうに破顔したのだった。
END
##PAGE1##