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□first
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さらさらと流れていく風と、揺れる木漏れ日の中に、チャドとレイはいた。
しかしながら、今のふたりには自然の美しさを感じる余裕など無かった。
first
レイと向き合って、その両肩を掴んだまま、チャドは動けなくなっていた。
動けないのはレイが何かをしているからではなく、単にチャドが固まってしまっているからなのだが。
「……あのさ。するなら早くしたら」
いい加減焦れたのか、レイが溜息と共にチャドを促す。
しかし、そのせいで余計に掴んでいる肩の薄さだとか桜色の唇だとかを意識してしまい、チャドは真っ赤になってしまった。
「…なに赤くなってんだよ」
「仕方ないだろ…」
どうにも気恥ずかしく、チャドの視線はレイの顎のラインをさまよう。
こくりと喉を鳴らす音が、妙に響いた気がした。
「…好きな奴に『キスしていい』って言われたら、緊張するに決まってるじゃないか」
ぽつりと漏らせば、チャドの熱が移ったかのように、レイも頬を赤く染め上げた。
恋人同士になったふたりだが、実は唇へのキスは一度もしたことが無かった。そもそも、どちらにもキスの経験が無いのだ。
正真正銘、ふたりの『ファーストキス』なのである。
幼い彼らが緊張するのも当然と言えよう。
しばらく無言の時間が続いたが、突然レイがチャドに抱きついた。
「レ、レイッ!?」
「ばか!早くしろよ!!」
気が狂いそうだ、と訴えるレイの耳は綺麗に赤い。
「俺も、おかしくなりそう…」
いや、もうなってるのかも。
そんなことを思いながら、レイの顔をそっとあげさせ、覗き込む。
チャドと目を合わせないように視線をそらしていたが、その瞳が潤んでいるのは隠しようもない。
「…レイ」
ゆっくり顔を近づけて、そっと唇を重ねた。
触れ合うだけの、やさしいキス。
けれど、燃えるように熱い。
触れる唇も、頬も、手も、すべてが。
(…あつい)
唇を離すと、一瞬名残惜しいと感じたが、レイの顔が見たくなり、その頬にそっと手を滑らせた。
瞬間、ぴくりと跳ねるからだ。
レイは驚いたふうにチャドを見つめ、また顔を逸らした。
そして、戸惑ったように口を開いた。
「…オレ、今すごいドキドキしてる。なんでだろ、チャドとキスしただけなのに、こんなに、…」
その先の言葉は、音にならなかった。
チャドがおもいきりレイを抱きしめて、赤く染まった目元にくちづけたから。
「レイ。それは多分、好きだから、じゃないか…?」
その証拠に、と、レイの手を己の左胸に寄せた。
「…速い、な」
「ああ、オレもドキドキしてるんだ。レイのことが、好きだから」
「チャド…」
澄み渡る風さえ、ふたりの熱を冷ますことは出来ない。
お互いの鼓動を感じながら、もう一度、そっと唇を重ねた。
END
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