文章♯
□海に沈んだラブレター
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――其れは、水底に沈んだ数枚の羊皮紙――
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拝啓
風薫る爽やかな季節となりました。水の街は常と変わらぬ様相ですが、そちらはいかがお過ごしでしょうか。
さて、堅苦しい挨拶はこのくらいにしておきましょうか。私としては形式に則って書くのも吝かではないのですが、あなたの頭がパンクしてしまうでしょうから。
あなたがいなくなって、一年が経ちました。皆も表面的には落ち着きを取り戻したように見えます。
世界は安定への道を歩んでいます。新生神託の盾教団の残党や、一部の過激派による暴動は各地で起こっていますが、鎮静化は時間の問題でしょう。民衆が完全に受け入れるまでに時間がかかるだろうことは想定の内であり、神託の盾教団の見立てでは長くても五年ほどで浸透するだろうとのことです。
私はフォミクリーの研究を再開しました。とはいえ、許可が下りたのは本当に最近なので、再開の準備が整った、と言うべきなのかもしれません。何しろ、私自身が停止させた研究ですから、議会の反発がそれはもう強くて。陛下やガイの協力もあってここまでこぎつけましたが、今でもお偉方には嫌な顔をされます。まあ、特別痛くも痒くもありませんが。誰に何と言われようと、私の決意は揺るがないのですから。
最近、音素に替わる新たなエネルギー源が発見されたそうです。ただし、現段階では実用は困難だということ。そのエネルギー源が使えるようになれば研究にも利用できるのではないかと思うのですがね。老後の楽しみにしておきましょうか。
そういえば、いつだったかあなたが「ジェイドだけ手紙をくれなかった」と拗ねたことがありましたね。確か、一度旅を終えてあなたがお屋敷にいるとき、他の仲間は手紙を宛ててくれていたのに、私のは一通も無かった、と。あの時ははぐらかしましたが、実を言うと、私はあまり手紙を書くという行為が好きではなかったのです。自分の思いが形に残るのが、少々恐ろしく思えたのです。その私がこうして文をしたためているのですから、人間とは変わるものですよね。
この前、荷物の中からあなたが使っていた栞が出てきました。そう、日記に挟んでいたものです。日記自体はファブレ家に引き取られたのですが、栞はいくら探しても見つからなかったのです。まさか私の元にあるとは思いませんでした。思えばこの栞も、あなたの旅を見守っていたのですよね。そう考えると、何だか不思議な気持ちになります。
あなたが戻ってくるとしたら、きっと、……いえ、やめましょう。どんな事柄でも悪い事態を想定するのは、私の軍人としての習性であり、悪い癖でもあるのですね。あの旅をしなければ、きっと自覚しないままだった。私は多くのことをあの旅で学んだのです。それから、あなたにも。こんなことを書くのは柄ではありませんが、あなたに会えて良かったと思っています。
では、またいつか会えることを願って。
敬具
追伸.
柄ではないついでに。あなたの姿が見えないのは、少しだけ、寂しく思います。
親愛なるルーク・フォン・ファブレ殿
ジェイド・カーティスより
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