文章♯
□ジェントリィオレンジ
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モンスターボールと戯れていたビクティニが、足音に反応して顔をあげた。
こちらに歩いてくる、俺にそっくりの少女。その後ろをひょこひょこついてくるのはゴンベだ。
「トウヤ、久しぶり!」
「久しぶり、トウコ。おかえり」
ビクティニがゴンベに駆け寄り、話しかけ始めた。
懐っこいやつだから、初めて見る顔を見つけると話しかけずにいられないのだ。
隣にいたNが、彼女達を見て不思議そうな顔をした。
そう言えば、トウコが来るって言うの忘れてたな。
「元気そうだね」
「お陰様でね」
挨拶を済ませると、トウコはNのほうを向いて、にっこり笑った。
「あなたがNね? 私、トウコ。初めまして」
「あ、うん。初めまして…?」
突然向けられた言葉に、Nは戸惑いを隠せないようだ。
助けを求める視線を受けて、俺は苦笑した。
「N、こいつは俺の双子の妹で、海外で働いてる父さんと暮らしてるんだ。この前ライブキャスターで話をしたときに、あんたのことを話したら、」
「そう、どんな人なのかしらって、会ってみたくなっちゃって! あとで色々話を聞きたいわ」
相変わらずぐいぐい来るやつだ。
根はいいやつなんだけど、最初は戸惑うかもなあ。
「それにしても、トウヤが言ってた通りね。とっても綺麗」
「きれ、い…?」
「ちょっ、トウコ!」
Nはほわりと頬を染めた。
綺麗だと言われたことに対してか、“トウヤが言っていた”ということに対してかは定かではなかったが。
ビクティニと話していたゴンベがやってきて、Nに何事か訴えだした。きっと“Nがポケモンと会話出来る”ということを聞いたんだろう。
Nはしゃがんで、ゴンベの話をふんふん、と聞きだした。
「うん…うん…そっか、…」
「…え? Nって、ポケモンと話せるの?」
「ああ、そうみたいなんだ」
そっとトウコの顔を伺う。
そこに浮かぶのは純粋な驚きと少しの羨望で、俺は自分の考えを確信する。
「…うん、わかったよ」
話が終わったらしく、立ち上がったNが、まっすぐトウコを見つめた。
「『いつもありがとう』」
「え?」
「キミのゴンベがね、キミに伝えてほしいって。素敵な人なんだって話してくれたよ。本当にキミのことがスキなんだね」
そう言って、柔らかい視線をゴンベに向けた。
ゴンベは恥ずかしそうに両手で頬を押さえている。
トウコがふるふると震えた、かと思うと。
「ゴンベっ!」
がばっ、とゴンベを抱きしめた。
短い腕がぱたぱたと動く。
「私もあなたが大好きよ!」
ゴンベはとても嬉しそうだった。
*
「トウヤ、どうしてこんな大事なこと、教えてくれなかったの!?」
ゴンベとひとしきり愛を確かめあったあと、トウコは俺に詰め寄った。
「どうしてって、別にライブキャスター越しで言うことでもないかなって」
「いーえ、言ってほしかったわ!」
今度はきらりと瞳を瞬かせて、Nのほうを見る。
…おい、あんまり困らせてくれるなよ?
って言っても無駄かもしれないけど。
「N、ポケモンと話せるなんて、とっても素敵だわ!」
言われた意味がわからないかのように呆けているN。
その手をトウコがとって、握りしめた。
「ねえ、どんな話をしているの? 人間とそんなに変わらないのかしら?」
「…あ、ええと――」
勢いに押されてか、たどたどしく話すNの話を、トウコは瞳を輝かせながら聞いている。
そして、Nもだんだん慣れてきて、最終的にはスムーズに会話が出来るようになっていた。
うん、トウコは昔から好奇心旺盛で人懐っこくて、嘘がつけないやつだった。だから、それは彼女の素直な反応なんだよ。
「やっぱり私の目に狂いはなかったわ。あなたとは仲良くなれそう。これから、よろしくね!」
トウコが笑いかけると、つられたようにNも笑顔になる。
「うん。よろしく、トウコ」
――ほら、間違ってなかっただろ?
あんたがポケモンと話せるのは、ポケモンが好きな人にとっては羨ましいことで、それは才能と言ってもいいと思う。
だって現に、あんたは一人の女の子とそのポケモンを笑顔にしたんだ。それは誇っていいことなんだよ。
「あっ、トウコだあ! 久しぶり!」
「ベル、チェレン! 久しぶりね!」
「元気そうだね、トウコ」
「ええ、とっても!」
一層騒がしくなった輪に加わりながら、俺はNの背中をぽんぽん、と叩いた。
向けられた笑顔は、とても綺麗だった。
END
トウコの説明と人柄を書きたかっただけの話。だからトウヤがほとんどナレーターで、主N要素が少ないっていう。ごめんねトウヤ(´・ω・)
そしてまた何番煎じなネタ…orz
Black