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□眠り姫とギャンブラー
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リーグの一角、幻想の光をたたえる部屋にいる眠り姫。
彼女を守るナイトであるはずのランクルスは、まるで少女に抱かれる縫いぐるみのように、安らかな顔で共に眠っている。
ギーマが部屋に足を踏み入れても、その光景は何ら変わることなくそこに在った。
「……どなた?」
足音に反応して目を覚ました部屋の主――カトレアが、鈴の音のような声で問うた。
「俺だよ」
「なんだ、アナタなの…」
そう言って、カトレアはまた眠ってしまおうとする。
ギーマは思わず苦笑して、ベッドに手をついた。
「おいおい、俺が悪い狼だったらどうするんだい?」
片目だけをあけてギーマを見た彼女は、それでも通常通りの態度を崩さない。
「じゃあアナタ、このままアタクシが眠ってしまったら、何か悪さをするつもりなの?」
「えっ?」
逆に訊かれたギーマは戸惑いを隠せない。
全く警戒する様子を見せないのでそう言ってみただけで、眠る彼女に手を出すつもりなんてさらさら無いのだ。
「……参ったな。お姫様はなかなか手強くていらっしゃる」
「光栄ね」
カトレアは目の縁を擦りながらも、ギーマとの会話を継続する気になったらしい。
ゆっくり上体を起こして、ヘッドボードに凭れかかった。
「アナタ、最近よくここに来るわね。そんなに暇なの?」
「暇だから来てるわけじゃないさ」
「それならどうして?」
「きみを口説きに」
数瞬の間があって、カトレアの目がすっと細くなる。
「おあいにく様。アタクシは賭け事って好きじゃないの」
「心外だな。俺は確かにギャンブラーだけど、恋愛で賭けはしないよ」
「…本気で言ってるの?」
「もちろん」
その言葉に偽りは無い。
誤解されがちだが、ギーマはこと恋愛に関しては誠実である自負があった。
カトレアはことりと首を傾げて、瞳を瞬かせる。
「アナタって物好きなのね。アタクシといたってきっとつまらないのに」
「そうかな? 少なくとも俺はきみに魅力を感じるし、退屈だと思ったことも無いけど」
「……、ふうん…」
ギーマの言葉を聞いて、カトレアが上目遣いに覗きこんでくる。
内心ではときめきつつも、それが真実だと証明するように、その視線に真っ向から受けて立った。
ややあって、カトレアの視線がふっと外れる。
「勝負師さんは本気でアタクシを口説こうとしているのね」
ふわ、と軽く欠伸をして、可憐な唇がゆるやかな弧を描く。
「それなら、アナタがどうやってアタクシを口説き落とすのか、楽しみにしてるわ」
そう言って掛け布団の中へもぐりこんでしまったカトレアに少し笑って、ギーマは踵を返した。
勝負は始まったばかり。今はこちらが劣勢だけれど、必ず逆転してみせる。
(さあ、腕の見せどころだ)
END
うちのカトレアさんはクーデレです。
ランクルスの描写は本当はいらなかったんだけど、可愛いのでつい(笑)
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